アリスを除いた皆がゲームに参加しようという雰囲気の中、フィエールはただただ無言で立っていた。
「えーでも…。」
まだ悩んでいた頃、草がやたら擦れる音がする。そう遠くはなかった。
「あら。大砲は鳴ってないわよ?」
エリザベータは城の玄関口の右脇の柱に目を見遣ると、赤の女王の軍であるパルフェが顔だけ覗かせていたのだ。だが、お互い警戒心はなくこちらの人影を確認すると満面の笑みで手を振ってから駆け寄ってきた。
「あなたは…どなただったかしら?」
記憶疎らなアリスが話しかける。パルフェあ地味に応えたのか表情が微妙にひきつり耳は下へ下がった。
「この僕を忘れちゃうだなんて!自他諸とも認める完全美少女パルフェちゃん…。」
「何か用があって来たのか?」
フィエールが辛辣にも言葉の途中で話を切り出した。パルフェも案外すんなりと本題に移る。
「そうそう。三ヶ所で火薬が無くなったので補充の許可をお願いします。」
するとエリザベータは機嫌をすっかり損ねて頬を膨らませた。更にパルフェは説き伏せようと試みる。
「三ヶ所それぞれ離れておりまして時間が多少かかるかと…その間は休憩を挟んであちらで行われている祭りでも観に行かれませんか?」
腑に落ちていない模様だが、少しでもそちらの祭りの方に興味が揺らいだ。
「…そうね、滅多に行くわけでもないし、仕方ないわ。」
と溜め息を吐いて、アリスに名残惜しそうに別れの言葉を残した。
「ごめんなさいね、もっとお話したかったけれど…是非ゆっくりしていってちょうだい。」
そして、ドレスを引きずりながら自分の所有地の方へ一人向かった。心配そうにアリスが訊ねる。
「女王様一人だけで大丈夫なの?」
一方フィエールは淡々と答えた。
「大丈夫で候。現に敵軍の騎士がここにおるのだからな。」
「ふぎゅ〜…僕はもうゲームから降りたからさ…。」
さすがのパルフェも減らず口はたたけず、頭も下がるほど落ち込んだ。
「ゲームから降りた?」
こんなときについ疑問に思ったことが口から出てしまうのがアリスの癖だった。しかしパルフェは丁重に返す。
「うっかりしてたよ。白のルークとビショップの範囲内に足を踏み入れてしまってさ。」
話を流し聞きしていたシュトーレンがパルフェの腰にさげた剣に目を向けた。すぐに視線と同時に彼が何を気にしているのかも理解する。
「こいつさえ抜ければ状況は変わっただろうけどね。このゲームは武力を使うことは禁止されてるんだ、使うのはここ。」
人差し指で自らのこめかみをつつく。要は頭脳戦を用いたゲームなのだ。駒が本物の騎士であれ、やり方はチェスとほぼ一緒だ。
「冠を取られたらゲームから強制的に降ろされるので候。」
あとからフィエールが付け足す。確かに、出会った当初パルフェの頭に乗っかっていた銀の冠はいまやない。そこでアリスは、参加する権利のない敵がい近づいても襲われる心配がないのだと理解した。
「まあ逆に言えばどんな素人でも安心して参加できる、というわけだ。」
さりげなくパルフェはアリスの前に立ちはだかる。勿論その場にいる誰もが疑問を抱いた。
「なにが申したいのでござろう、パルフェ殿。」
怪訝そうに睨むフィエール。なんと、武力は禁忌であると言ったパルフェが剣の柄に手を添え片足を引いて構えたのだ。
「やだなあ、わかってるくせに。彼女は赤の軍のものだって言ってるだけだよ。」
きょとんとしたままのアリス一行を無視して勝手に話がまた進んでいきそうだ。
「え!?パルフェさん…あの、私はどこにも…。」
なんとか止めようとするが、今度はフィエールが臨戦態勢をとった。
「べらぼうめ、何を根拠にそのような譫言をぬかしておる!」
長い袖から鋭く尖った刃が見えた。暗器使いなのかもしれない。半ば怒り気味のフィエールに対しパルフェの表情には余裕の笑みが見えた。頭脳戦ではさておき、戦闘での実力は騎士だけあって実は相当なものだろう。






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