鎧を着た方の少女は顰めっ面でフィッソンを睨む。
「拙者の魔法と科学を融合した最高傑作を適当なものとなぞらえてもらっては困る。」
可憐な声には合わず古風なしゃべり方だった。となるとアリスはまさかと思った。彼女がどれほど大きな建物をどうにかして隠しているのだ。しかし、きっとかなり大規模な構造だろう、そこに魔法など非現実的なものが加わったらいくら丁寧に説明されても「すごい力」と解釈をせざるを得ない。
「ふふ、私達が隠れていたのも同じ仕組みですわ。それはそうとフィッソン、よく連れてきてくれましたね。」
彼女の発言やいちいちとる仕草に気品を感じる。フィッソンは手を胸に当て深くお辞儀をした。
「有り難きお言葉…。」
シュトーレンはどうしていいか分からずぼーっと突っ立っているがアリスも並んで頭を下げているのを見てなんとなく自分も真似をした。
「このようなところでお目にかかれるとは大変光栄です。」
礼儀のいい言葉を羅列するアリス。お行儀だけは相変わらずで、あえて名乗らないのは相手より身分の低い者が先に出るのは失礼だという思い込みの表れ。
「あらまあ…随分出来た子なのね。皆頭をおあげなさい。私は相対の国王女エリザベータ、隣は側近のフィエールよ。」
フィエールは肘を曲げて腰を折る。
「私はアリス・プレザンス・リデルといいます。…こいつ…こちらは仲間のシュトーレンです。」
つい扱いの雑さが言葉に漏れたがシュトーレンは聞いてなかった。フィエールの長い耳が気になっているのだ。
「お前俺の仲間か!?」
「それは違うので候。」
即答された。彼女のはまた、獣のそれではない。
「アリス・プレザンス…リデル…ちょうど貴女のお話をしていた所になんという偶然なのかしら。隣国を独裁者から解放した英雄…。」
エリザベータがうっとりとした表情でこちらを見つめる。あながち間違ってはいないが、言われ方もその視線もアリスにしたらとてもこそばゆかった。
「あの…大したことではございません。私はただ…。」
へりくだって口数が減っていくアリスの手をエリザベータの指がそっと包む。
「貴女のおかげでほぼ鎖国状態の淘汰の国と国交を結ぶことが出来たわ。…これで、更に我が国は繁栄できる…なんて、お堅い話はやぁね。」
ぱっと手を離しくるりと身を躍らせる。長い髪とドレスが空気を纏い靡く。
「この国で壮大なゲームを開催しているのはご存知かしら?」
そう訊ねるエリザベータはアリス以上に子供のような無邪気な笑顔で、もし知らないとしたらそれが申し訳ない程。だが、彼女は冒頭で聞かされていた。
「赤の女王様から聞きましたわ。まるでチェス盤を自分達が駒になって歩き回るみたいな不思議なゲームですね。」
目を輝かせ両手で拳を作った。アリスもどちらかといえば興味がなかったわけではない。
「ええまあ…。」
一瞬エリザベータが口を濁したのを誰も気づかなかった。すぐにまた穏やかな表情に戻ったから尚更だ。
「我が言うのもなんだがお主達の用は済んだのだろう。折角だから娯楽に興じてはどうだ?」
フィッソンの言う通り、アリス達のこの国にいる用事はなくなった。遠回しだが、大体彼の言いたいことはわかった。
「そうだわ。今からでも間に合います。良ければ私の白の軍に入ってくださらない?」
アリスは吃驚仰天に何度か目を瞬きさせた。まさか、今がそういう流れだったとしても、両方の王女から直々にお招きされるとは思わなかったのだ。対して親睦も深めていない、出会ってすぐなのにこのような声をかけられるのは本来なら大変喜ばしいことである。
「え…ああ…えーっと、そうだ、レンさんあなたは…。」
自分一人で決めてしまうのも良くない。心の底では彼に救いを求めていた。

アリスは赤の女王の誘いを断った。その時点で白の女王に付くことなど向こうに申し訳なくてとても出来なかった。シュトーレンがここではっきり断ってくれたなら、と密かに自分に都合のいい結果を託す。
「いいじゃねーか!やろうぜ!」
「………………。」
期待した相手を大いに間違えた。アリスは判断ミスを後悔する。口にはしないが顔に弱冠落胆の色が見え隠れしていた。






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