アリスはガラスに背中を張り合わせる。顔はひきつり血の気も引いてまるで蒼白。男が近寄る度に可能性が奪われていく。できるならば今すぐここを出て外へ逃げ込みたいのだが、自ら死にに行くようなものだ。
「あ…やだ…貴方…誰?」
震える声で現実を否定するかのごとく首を横に振り尋ねる。
「あー…俺?んー…ナイショ。てか言っちゃったらダメなやつっしょ。」
男はじりじりとナイフをちらつかせつつ距離を詰め、すっかりすごんでしまったアリスの髪を撫でた。
「ひっ…!」
その行為も気持ち悪く肩が跳ねた。
「いい鳴き声だねー…あ、別にそんな趣味じゃないから。俺はいじめるのはキョーミないの。」
髪からすっと手を離すと今度はナイフを唇にあてる。随分と狂気的に。笑う。
「…俺はね、殺すことがね、好きなの。」
アリスが僅かに芯の強さを見せた。顎を引いて睨む。
「だってさ、毎日「いつ死ぬかわからない」なんて思って生きてる奴なんかいないでしょ。特に君みたいな生まれたときから幸せそうな奴はね。」
男はアリスの反応さえ愉しんでいるみたいだ。
「そーゆー奴が突然死ぬのって最高傑作でさぁ…でも、それは突然の死でないと個人的につまらないわけ。君もさっきの一発で殺すはずだったんだけど…。」
他人事のように話す男。恐怖に打ち勝つ強い感情がアリスの口を開いた。
「それが殺していい理由にはならないわ。」
すると男の顔から一瞬笑みが消えた。
「それじゃなかったらいいのかい?」
でもすぐに、不気味に口が歪んだ。
「じゃあ君が僕の姿見ちゃったー!証拠隠滅として殺しちゃおーっと!」
次の瞬間男はアリスの首もとを押さえイフを持った右手を後ろに引いた。

…だが、ほんの刹那を見切ったアリスが男の急所を渾身の力を込めて勢いよく蹴り上げた。
「ゔッ…あ、ぅああ!!」
どんな手慣れた殺人鬼も男性である以上この攻撃に耐えられるものはいないだろう。力の抜けた掌からナイフは落ち、重い呻き声を上げながらその場で悶絶している。







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