するとビバーチェは彼の目の前にしゃがみこんで小首を斜めに微笑んだ。今までに見せなかった子供のような愛らしい仕草は出合い初めの高圧的な態度からは想像つかない。
「ユーも座る!」
Youと指されたフェールの視線は下へ降ろすとのの、うまい具合にスカートが隠す部分をちゃんと隠しているため彼が内心不貞腐れているのを気づいちゃいない。
「は…?…もうちょい足とかずらしてみいへん?」
正直体を起こす気力もなかった。適当な冗談でかわす。
「お前の足をへし折るわヨ。いいから座って…ネ?」
軽いジョークを本気で受け取ったか、それとも中々自分の思い通りにならない苛立ちからか目だけが笑ってなかった。このままだとなにもしなくても折られてしまう。それだけは勘弁だった。
「はぁ〜、なんか金になるもんでもくれるんやったら嬉しいんやけど…。」
するとまたビバーチェは瞼を細める。元から性根がひねくれているフェールはその笑顔の裏にどんな意図があるのかとまず疑ってしまう。だが、どちらにせよいつまでも寝そべったままにはいかない。
「んで結局なに…?」
腹部の痛みに堪えながら体を起こした。力んで閉じた目を開くが、すぐに驚いて双眸を見開いた。
ビバーチェはフェールの伸ばした足に跨がり、息もかかるほど近く距離を詰める。細い指は頬に、左手は肩に添え、瞳は探りを入れるような上目遣い。そして端の上がった唇は相手の唇に。
「………!?」
すぐには自分がどのような状況に置かれてるか理解できなかった。咄嗟に突き放そうと腕が上がる。

抵抗しようとすれば容易くできたはずだ。でもフェールには抵抗する理由がない。もしこれが彼女の言う「御褒美」ならば満更でもなかった。振り上げられた腕は彼女の背中に回し、いつしかお互いの口腔を侵し合うだけの行為になった。

「………………ッ!!」
突然、フェールは激しい頭痛に襲われた。思わず力任せにビバーチェを突き飛ばす。
「あんっ!…ちょっと、急になんなの!?」
怖くなるぐらい重さを感じない体は簡単に地面に倒れるがすぐにまた起き上がった。
「お前…今「なんかした」やろ!」
不審にこっちを睨むフェールを不思議そうに見つめる。
「Why?チェリーボーイにはまだ大人のキスは早かったかしら?」
ビバーチェの言動からして、どうやら自身がやたら警戒しすぎただけだと色々と後悔し、しばらくして深いため息を漏らした。
「いやそうやのうて…って、待てぃ!誰が童貞やコラ!!」
いかにも図星のような反応を見せるフェールにビバーチェは指を差して笑う。
「ひゃひゃひゃ、顔にかいてあるネー!」
なんだか好き放題されてる気がしてならなかった。癪に障る気持ちをぐっと抑え込んだ。

「アオオオオオォォォォォォン!!」

そんな二人の会話を、獣の遠吠えが掻き消した。
「げっ、野生動物か?ウチ飛べんやん!!」
フェールもいつもなら危惧することないのだが、今は地を離れて逃げることが出来ない。非常に不利なのだ。一方ビバーチェは顔色ひとつ変えない。
「飛べなかったら走ればいいネ。」
「無茶言うな!」
羽を除けば生身の人間と同じ、獰猛な獣にすぐ追いつかれてしまうだろう。一方ビバーチェは顔色ひとつ変えない。彼女は生身の人間の姿をしただけの化物だ。立ち上がるとスカートの中、太股に装備したホルダーケースから鉄扇を取り出す。それで迎え撃つのかと思えば普通にあおぎだした。
「それに心配することないワ。あの声はワタシの同胞に間違いないデース。」
間もなくして遠方の幹の太い木だけが僅かに揺れる。 そこから出てきたのは熊や狼などではない。大柄な一人の男だった。







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