地下帝国の核に当たる場所。巨大な円柱の壁は異世界で得た鉱物で出来ており、この世に存在するどんな強い力を以てしても決して破壊されることはないという。一般にどういう所以か不明だが「地下帝国」と呼ばれるだけで、実際ここ自体、相対の国を含む世界とは全くの異世界なのだ。空だって今は雲ひとつなく晴れている。

そのため、地下帝国は外部の影響もなく当たり前のように機能して独特の発展を築いてきた。ただ、昔の傷跡は胸に焼き付いたままの者も少なくない。そう、特に今回「あることがきっかけで」目覚めた人外や魔物達の憎悪や怨念、悲しみは計り知れないものだろう。




「ぶっちゃけろーれもいいでつー!」
ハーミーが片手をびしっとあげて自分の意見を主張した。右にはスネイキー、左には南風、またはスチェイムが方膝を立てて跪いている。
「こら…無礼だぞハーミー。」
顔をしたに向けたままスネイキーが咎める。が、ハーミーは「なんでぇ?」と首をかしげた。
「あたしはショージキに答えたらけなのらー!ヒトがどーのとかキョーミないもーん!」
それを聞いたスネイキーは呆れてこれ以上物も言えなかった。

「…そうか、それが貴様の意見か。」
地下帝国の中枢部。三人の目の前、金色の装飾に縁取られた脚の高い玉座にて足を組み頬杖を突いて一人の青年が独り言を呟くような小さな声で返した。ボロボロの赤黒いマントに首には錠前の付いた革の首輪。髪は漆黒の濡れ羽色、鮮血に似た真っ赤な瞳は目に映る物全てを等しく見下していた。
「ハーミット。貴様にはこいつをくれてやろう。」
青年が指をならすとハーミーこと、ハーミットの足元に青い林檎の形をした小さな果物が現れた。
「毒林檎でつ…か?」
さすがのハーミットもこれには不審を抱かざるを得ない。
「毒はない。そいつはおしゃべりんご…食べると一度だけ、まともに話すことが出来る。貴様は魔導士だ。ここぞという時に…。」
青年はまだ説明の途中にも関わらず、喜びのあまり最後まで聞かずに口に放り込んでしまった。
「…ハーミー…。」
スネイキーが「やってしまった」と目で話す。味は林檎そのもので、満足げに咀嚼して飲み込む。
「ありがといございますジャッキー様!…やったぁ、あたし普通にしゃべるぇ…。」
嬉しそうなハーミットの笑顔がすぐさま固まる。そう、話せるのは一度きり。一旦喋るのをやめてしまえばそれでおしまいである。
「…はにゃあああああ!?」
ハーミットは頭を抱え己の馬鹿加減に落胆の声をあげた。もうこれで彼女が普通に話せることはなくなってしまった。
「だっさ。」
慰めるどころかとどめをさすスネイキー。ジャッキーと呼ばれた青年も、黙ってハーミットの無様を見下ろしていた。
「次にスチェイム…いや、南風。貴殿はどのように思う。」
名を呼ばれ、ずっと黙っていたスチェイムが顔をあげる。二人称を「貴殿」と呼ぶ辺り、彼女を唯一自分と同等に扱ってることがうかがえる。
「私は出来る限り争い事は避けたい。わざわざ今の均衡のとれた状態を崩したくありません。」
その表情は真剣そのもの。しかしどこか憂いを帯びていた。
「…貴殿への褒美は後程渡そう。となると、スネイキー…貴様は一人になるぞ?」
するとスネイキーはゆっくり立ち上がって彼を見上げた。
「一人ならいいです。皆に合わせます。俺は平和主義者なので…。」
それに対しハーミットがけたけたと笑い出した。
「きゃはははは!平和主義者が「ぶっ殺す」なんて言わないぎゃっ!」
すかさずスネイキーに力一杯爪先を踏まれハーミットは悶絶しながらその場に崩れた。
「フン、ことなかれ主義の間違いではないかね。…だが妥協してくれるなら私にとって非常に都合が良い。」
「いてて…見ろよスネイキー、お前も早く年取ってあのよーに寛大になれよいたいいたい。」
踏まれた箇所を大袈裟に擦って睨むハーミットに特に意味もなく彼女の頬を抓るスネイキーを、ゴミを見るような目で眺めて鼻では笑う。寛容なのか、さぞかし滑稽なのだろうか、そこそこ無礼な彼等(ハーミットが際立っている)の態度に立腹をする様子はない。




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