そんな時、森の中からサカキが麻の袋を両手に抱えて戻ってきた。
「お待たせいたしましたー。家に余り物の黄泉草があったので…ん?」
道に出た彼は細い目を丸く見開きせっかくわざわざ持ってきた袋を落としてしまう。だが気付かない。それどころではなかった。
「フィッソンさん…。」
そうか細い声で名を呼ばれたフィッソンの気まずそうな顔といったら、悪戯の最中に人に見つかったときの子供にそっくりだとアリスは感じた。
「あ…さ、榊…!」
ローブを引きずり後ろへ後退り。なんとなく、アリスとシュトーレンはフィッソンから離れ、ツバキは無表情で傍観していた。サカキの瞳は燦然と、表情は恍惚と輝いた。
「……フィッソン!久しぶりです!貴方からここに来たということはその気になったと解釈してよろしいですね!?」
出会った当初の紳士的な態度からは想像つかないほどの感情の高揚ぶりにツバキ意外の誰もが度肝を抜いた。
「全くよろしくない!」
そんな必死の拒絶も周りの目も気にすることなくサカキは満面の笑顔で駆け出し今にも逃げ出そうなフィッソンに抱きついた。
「またまた!そう堅くならなくてもいいのに、さあ、早く結婚しましょう私はいつでもオッケーですよ!!」
さすがにアリス達が抱きつくのとは事情が違う。フィッソンも当然、相手の肩を掴み引き剥がそうと力限りの抵抗をする。
の傍ら、アリスはあらぬ誤解をしていた。
「…えっと、サカキさんにも、婚約者がいるの…?」
シュトーレンもそのまま受け取っていた。
「男と男が結婚すンのか?すげーな、アイツら男が好きなんだな!!」
サカキは全く聞いておらず、あげくには頬を擦り寄せるぐらいだ。これでは語弊どころかそう思われても仕方ない。が、血の気が引いたフィッソンの顔は「違う」と物語っていた。
「椿、ちょっ、身内が通りすがりの人を襲っているのを黙って見過ごすではない!助けてくれ!!」
助けを求められたツバキはため息を深く吐いてアリス達の方を向く。
「アレがあたしの婚約者よ。」
アレ呼ばわりされたが、まさか不死鳥が烏の許嫁だとは、これほどおかしな話があるだろうか。元の世界に戻ったら真っ先にまず、姉に話したくて仕方なかった(姉はアリスの話はなんでも聞いてくれるからだ)。
「すごいわ!不死鳥と烏の結婚ですって!」
「鳥同士だろ?別に変わったことじゃなくねーか?」
シュトーレンは特に反応を示さなかった。考え方が違うようだ。
「だから言ったでしょ?すごい奴って。でも一応アレとは顔見知りで…。」
「アレとは何だ!!この…!」
なんとかサカキの暑苦しい抱擁から逃れたフィッソンははやくも疲弊しきっていた。膝に手をついて息を切らしている。
「ええい、埒が明かぬ…。そうだ、アリス達が、いるの、ならば…。」
途切れ途切れに独り言のように呟く彼に何かしらの予感が走ったサカキが腕を伸ばす。
「フィッソンさん!まさか!」
しかしフィッソンは身を翻し、サカキの手は空をつかんだ。
「小賢しい奴よ、我の自由は我のものぞ。彼奴もまた同じようにな。」
許嫁のツバキを一瞥してからフィッソンは強引にアリスの腕を掴む。アリスは咄嗟のことに体のバランスが前に大きく傾くもなんとか片足を踏み出すことで持ち直した。
「わっ、ほえっ、フィッソンさん!?」
戸惑うアリスをよそにフィッソンは足早にその場を後にした。
「待てよ、ばかー!!」
慌てて小走りで二人の後を追いかけるシュトーレン。逃れたいがために早く、三人の姿はあっという間に小さくなっていった。







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