ただすぐに彼の名前で呼んでいいのか躊躇った。もしかしたら人違いかもしれない、なんせここに瓜二つの二人の人物がいるぐらいなのだから。鮮やかすぎる金髪は肩につかないところまで短く、金色の装飾や紋様をほどこした、まるで法王が着てそうな派手な出で立ちでやって来た。
「あの…もしかして、貴方は…どなた?」
しかし、相手がもし「探していた人物」でアリス達のことを覚えていたとしたら「誰ですか?」という質問はあんまりではないかとアリスは囁きに近い声でたずねた。

「おお、お主はアリスと…隣のは三月ではないか。我こそ不死鳥の君とのたまうフィッソンと…わっ!?」
名乗り上げた彼にアリスは「やったー!」と歓喜の声と共に抱きついた。やっと会えた嬉しさと、人違いではなかった安心感にアリスの体は言葉より先に動いたのだ。
「ははは、元気そうでなによりだ。」
フィッソンは最初こそ驚いたものの寛容な性格は相変わらずであり、胸に顔を埋めるアリスの頭を優しく撫でて微笑んだ。
「ずりーぞアリス!俺も!!」
空いているところに便乗してシュトーレンも抱きついたが、それも心広く受け止める。さすがに苦しそうだが笑顔は絶やさない。
「私、あなたを探していたのよ!」
とアリスはフィッソンから離れシュトーレンに目配せをした。彼女の意図を察して自由の鍵を差し出す。
「これは…なぜお前たちが?」
すぐに手に取り、やはりフィッソンにとっては大事なものなのでアリス達を疑いの目で見た。
「途中でエヴェリンさんに渡されたというかー…でもはぐれちゃって…。」
いちからどう説明していいかアリスは口を濁した。シュトーレンは更々助け船を出すつもりはない。
「あやつが…?まあ、お前たちだったからまだ良いが…。」
不審げに呟くフィッソンの後ろ、ツバキは驚きをあらわにした。
「鍵…嘘でしょ…?」
ツバキの独り言にフィッソンはようやく彼女の方を振り向いた。その顔は、やや険しくある。ツバキは軽く咳払いをしていつもの澄まし顔を繕った。
「…椿、久しいな。早速だが聞きたいことがある。何故、「あの時」我とアリスを襲った?」
アリスからも笑みが消える。脳裏に鮮明に甦ったのは嫌な記憶だ。しかし信じられるだろうか、あの時襲撃してきたのがツバキだと言うのだ。
「……はあ?なんであたしがあんた達を襲わなきゃいけないのよ。」
ツバキは如何にも自分は関係ないといった素振りだ。それが逆にかえって彼を苛立たせた。
「では何故襲った。同じ事を聞かせるでないぞ。」
今までに聞いたことないぐらい、声が低い。勘の良い子供なら怯えてしまいそう。ツバキのしらを切った態度が気に入らないようだ。
「だから襲ってないってば。あの時っていつ?言ってごらんなさい!」
「淘汰の国女王ローズマリーが亡くなられた前日だ。」
すかさずフィッソンは答える。するとツバキは何かを思い出したのか「あー…。」と声を漏らした。
「その日は鉱石の国に用があったのよ。おかしなことならあったわね。…仮面の変な奴に会って気づいたら森の上を飛んでたわ。ほんとよ。」
それを聞いて彼の中の謎が深まった。おおよそ仮面の奴が誰か目星がついたところで、それこそ襲われる理由がわからない。
「まあ!最低だわ!人を操って襲わせるなんて、最低の意気地無しよ!」
アリスは一人腹をたてる。彼女の頭では仮面を被ったという特徴と場所ですぐにかの女王の側近の魔導師に結び付いた。
「よくわかんねーけど、そりゃあとんだ腰抜け野郎だな。」
黙って聞いていたシュトーレンが悪口を吐く。堂々としない戦い方はいけすかないらしい。
「如何せん、表に出ず人を手駒に取る狡猾さがなければあの女王の側近などつとまらぬだろう…それにしても卑劣極まりない。」
アリス達に対し、見聞の広いフィッソンは彼のやり方を理解しつつもしっかりと否定した。








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