ここまで言ったら相手が医者だとまるわかり。大体は羨ましがられてきたが、自分のことではないので聞くたびにうんざりしていた。ところがツバキは鼻で笑ったのだ。
「捕まえるなら開業医はもってのほか保険診療じゃない歯医者や整形科でないとたいした玉の輿に乗れないわよ。」
アリスには彼女が難解なことを言っている気がしてならなかった。そこで、姉との会話を思い出す。
「きんむい、って言ってたわ。」
「論外ね。」
家族がやたら寵愛するものだからアリスも彼がよほどお金持ちなんだと思っていた。だからこそ彼女の言葉が意外だったのだが、当の姉がさほど乗り気ではなかったのを今更ながら思い出した。
「だからお姉さま、したくないって言ってたんだわ。」
ひとりで勝手に納得するアリスにツバキが更なる質問を重ねる。
「じゃああんたは、そのお姉さまとやらが幸せになれると思う?」
ひどく難しい問いだった。答えに悩みに悩んでみるも全く浮かんでこない。それもそのはずだ。
「わからないわ。私はお姉さまじゃないもの。」
一方で退屈なシュトーレンは自分の影をじっと見たら空を見上げ、また影をみつめるの繰り返しをしていたが内心退屈には変わりなかった。ちなみにこれは影送りという遊びである。
「その通りね。…あたしもお見合いすることになってんの。」
人の色恋事情にすぐさまアリスは食い付いた。
「まあそれは!…本当?」
が、ここは楽しげに話していいのか迷ったあげく単調に聞いた。
「嘘言ってどうすんのよ。」
「どんな人?」
空気を読んでいるのかいないのか、やはり気になるものは気になるみたいだ。ツバキも特に嫌な顔は見せなかった。
「すごい人、それだけ。兄さんは「楽な生活」のためにあいつと無理にでも結婚させようとしてる。」
返す言葉に詰まるアリスを無視して続けた。
「いいの別に。それで兄さんも楽になれるなら。実際あたしもそう、兄さんに幸せになってもらいたいからそれなりに釣り合う女を…。」
「不公平だな!」
突如、話を聞いてないと思われたシュトーレンが口を挟む。誰もが吃驚して彼の方を見る。
「どういうこと?」
アリスの問いに真剣な眼差しをまっすぐむけて返した。
「だって、おにいさんは家族のためつってるのにあいつはおにいさんのためっていってるンだぞ。」
するとツバキは視線を足元に落とした。そして、今までの威勢はどこへやら、自信を失ったような力のない声で呟いた。
「そうね…不公平かもしれないわね。だからあたしは…。」

まだ何か言おうとした時、そう遠くない所で大砲がうち上がる音がした。
「誰かが移動したみたい!」
「そういやここは赤?白?」
二人の話題がころっと変わった。ツバキは呆れるか怒るどころか、実は少しだけ安堵した。これ以上続くと、口が滑ってしまいそうだったから。
「私達が気にすることじゃないわ。だって無関係だもの。」
とアリス。
「それもそーだな。」
シュトーレンも大砲が間近でない限りこれぐらいではちっとも驚かないようになっていた。ツバキもいまだ俯いたままだった。

「ああもう煩わしいったらないな!!」
双子の家の後ろの森の奥から男の人の声が聞こえた。
「サカキさんもう帰ってきたのかしら。」
と感心するアリスに対しシュトーレンが小さく首を横に振った。
「声が全然違うぞ!」
口調より声で判断されたら信じるしかない。足音も近づいてくる。兄の生声を一番よく聞いているだろうツバキの不安げな表情を見るとサカキではないことはすぐにわかった。

「やっと出れたぞ!!はーはっはっは…。」
がさっと葉をかきわけ一人の青年が道に足を踏み入れた。高笑いとともに颯爽と現れた青年は周りにいる人物を目で確認すれば清々しい笑みがぎこちなく強張る。
「あ、うん?おかしいな…我は花の小道に向かっておったはずが…。」
その青年はアリス達の探していた人物そのものだった。







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