ゼンマイの回りが鈍くなり、やがてツバキがどれだけ力を込めてもかなくなった。
「兄さん、もう一人もやらなくちゃダメ?」
「どうしましょうかね。…巻いといてください。」
サカキの満面の笑みが若干怖く感じた。ツバキも言われるがまま淡々とドルディーの服を捲って残りのゼンマイを嵌め込む。
「アリス…もう大丈夫ですよ。それより、先程ので怪我などはございませんか?」
彼の言葉に一安心してアリスは手を退けシュトーレンの横に並んだ。
「怪我はないわ。なんだか、色々起こりすぎちゃって疲れたけど。さっきだって倒れた直後に気分がよくなったの!」
彼女はとてもうんざりといった様子だ。シュトーレンは自慢げに話す。
「そうそう!俺刺されたのに生き返ったんだぜ!」
彼の発言がサカキの頭を混乱に追いやった。後ろを一瞥する。
「直接彼らが手をくだしたというのですか…?そうとなると、これだけでは足りませんね…。」
不穏な呟きにアリスが慌てて事実を訴えた。そう、自分達の発言によりとばっちりを与えるのはあんまりだと思ったからだ。
「それはあの子達とは関係ないの!」
サカキはそれを耳にしたらすぐに温厚な笑みでアリスの頭を撫でた。
「それはなにより。でも疲れているようなら、私の家でよければゆっくり休んでいってはいかがですか?」
何故か、アリスの思考が一時停止した。ぼーっとして、例えるなら熱に冒されたよう。
「アリス?」
シュトーレンに名前を呼ばれアリスは我に返った。不審に思われないよう、表情を堅くしわざと強張らせた。
「大変嬉しいお言葉ですが、私達は急いでおりますので気持ちだけでも有りがたく受け取っておきますわ。」
歳に似合わないやたら大人びた態度にひどく感心したらしくサカキは目を丸くしてしばらく彼女をまじまじと見ていたが、後ろから刺のような視線に気まずくなり、軽く咳払いをした。
「残念です…あ、失礼。ですがどうしてもお詫びをさせていただきたいのです。少しここで待っていてください。」
といって振り返れば、すでにドルディーのゼンマイも巻かれていた。双子は気を失っているというより、いまは安らかに眠っていた。
「椿。すぐに戻ってくるから、二人に失礼のないようにね。」
誰の返事も待つことなくサカキはまた、巨大なカラスに姿を変え木々の葉を羽ばたきで揺らせながら颯爽と飛び去っていった。
「…相変わらずお人好しなんだから。」
しばし見送ったあとツバキがアリス達の方を振り向く。紅い瞳は敵意剥き出しで、こっちを睨むのだ。気まずいどころの話ではない。
「あんた達…特にそこの金髪。」
「はいっ!」
自分のことだろうとアリスは教師に名指しで呼ばれた時のようにいきのいい返事をした。
「あり得ないとは思うけど、兄さんに媚売り色目を使って落とそうなんて考えてんじゃないでしょうね。」
まさか、とアリスが激しく首を横に振る。疑心暗鬼なツバキは懲りずに彼女を責めた。
「ならいいけど。兄さんはあの通り誰にでも優しいから変な虫がつきまとわらないようにしてんの。理解して頂戴。」
なんとなく気持ちがわかったようで、うんうんと頷く。ツバキはやっとこさ、安堵した。
「ツバキ、もしかしてやきもちやいてんのか?」
シュトーレンは理解しているのかいないのか、感じたことをそのまま口に出した。アリスも少なからずその考えがなかったわけではなく、どうフォローしたらよいものかパニックになり、予想通りツバキはこれほどになく憤慨した。
「汚らわしい野獣風情が軽々しくあたしの名前を呼ぶなッ!!あたしは、ただ、兄さんに相応しい人に…!」
くちさがない罵倒の後、彼女は言葉がつまり詰まりになった。深呼吸をし、息を落ち着かせる。
「…あんたにはわかんないわよ。わかってもらおうとも思わない。ねえ、あなた。お見合いって知ってる?」
アリスは当然知っていた。
「私のお姉さまがお見合いをなさっているわ。お医者さんの息子なんっ…。」
と、途中で口をおさえるも遅い。言ってはいけないと思ったときには半分ぐらい言葉に出していたのだ。









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