「レンさん、それと思い出しちゃったの。この状況、私の知っている詩に似ているわ!」
「…つまり、どういうことだ?」
当然、聞き返す彼にアリスは特に意味もなく声を潜めた。
「きっとこのあと、巨大な怪物カラスが二人を追い払うんだわ。ここまでそっくりなんだもの…きっとそう!」
しかしシュトーレンはアリスの答えになってない返答に更なる謎が深まり、こっちが不満げに眉を顰めた。
「まさか、今ので頭がイカれたんじゃねーだろうな…?ていうか、追い払ったら俺達一生このままだろ!」
ここは彼の言っていることのほうが正しい(余計な一言は関係ない、アリスは至って正常だ)。そしてシュトーレンは思考を練る。
「そっか、もしかしてこの罠にかかるのも詩どおりだとしたら助からないままおしまいなんてこたぁないよな?」
期待の眼差しで見つめられたアリスの目が泳いだ。
「…いや、罠にかかるとは書いてないの。」
「嘘つき!!」
苛立ちをあらわにしたシュトーレンが心にもない言葉を口走ってしまう。混乱したアリスはどう返していいかわからなかった。
「う、嘘なんて一言も言ってないでしょ?あ、あれぇ?」
一方、そろそろ決着がついてもいい頃だろうに双子の争いはまだ最中だった。

「あまり長引くようなら一旦やめにしようよドルディー!今は何時だい?」
剣を構えたままドルダムが問う。
「家を出るときは四時ぐらいだったよドルダム。」
同じ体勢で同じ構えをとるドルディー。アリスは「これだけ同じ動きをしたらそりゃあ片付くわけないわね。」と内心呆れていた。そこでドルダムが溜め息混じりに返した。
「はぁ…そうか。じゃあ六時まで続けよう。」
続いてドルディーはこう言った。
「そうしよう。こうなれば、手当たり次第切っていくからね。」
「僕だって、目に写るもの全て切っていくからね。」
アリスはただ愕然とした。開いた口が塞がらない。
「信じられない!おかしいことが沢山ありすぎてなにがなんだか、頓珍漢のちんぷんかんぷんだわ!」
自分で口に出しておいて我ながら語呂がいいとちょっとだけ自画自賛した。
「とちかんぷんだな!でもアリス、六時までってことは「喧嘩なんか出来ない」ぜ?」
そばでもまた訳のわからないことを言うと思ったが、偶然にも彼の意図を察したのだ。
「「誰かさん」と一緒にしないで。時間はちゃんと進んでいるわよ。」
その時、そう遠くないところからけたたましい鳥の鳴き声が響いた。アリスの声など、見事に掻き消された。
「この鳴き声は…聞いたことあるぞ!でもこんなでかいのは初めてだ!」
度を超して煩いものだからシュトーレンも耳を下に引っ張る。アリスは手でそっと塞いだ。
「私も聞いたことあるわ…間違いない、これは…カラスよ。それも、化物みたいな巨大怪物カラスに決まってる!」
シュトーレンは否定しなかった。ここまでおおきな鳴き声はそこらへんで見るカラスとは比べ物にならないからだ。
「アリスの言う通りだ!たとしたら…。」
彼の言葉を最後まで待つことなく、一瞬黒い影が通りすぎるのを隙間から感じた。次に剣が落ちる音。しまいには…。
「「カラスが来たあああああああ!!!」」
双子の悲鳴とも絶叫ともとれる大声と羽音。まさしくアリスの仰有るままとんとん拍子に事が進んだ。これまでに愉快なことは滅多にない。驚きも宛ら、感動すら覚える。






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