■ 1


…―ようこそ、淘汰の国へ―…

「…何だァ?淘汰の…国?」

少年が目を覚ましたのは、森をバックにした大きなログハウスのベランダだった。まだ真新しいフローリングの床の上で大の字に仰向けで寝転んでいた。不思議なことに眠気が全くなく意識ははっきりとしている。そのくせ、こんな見に覚えのない場所にいることはおろか、それまでの記憶などが一切なかった。更に自分の名前、年齢、出身さえわからなかったのだ。

彼の空っぽな頭の中に直接的にどこからか声が届いてくる。今はその声の主がどこにいて誰なのかを問い詰める気力すら沸いてこない。なんだか体が怠く、鉛のように重たく感じた体を渋々起こす。随分な快晴で雲は1つもない。生暖かな風が撫でる。

―まあ深いことは考えないでくれたまえ。焦らずともよい―
相変わらず謎の声は脳内に話しかけてくる。おそらく自分に声をかけた人物はこいつだろう。たとえ幻聴だとしても、もどかしいことこの上ない。

「てめぇは誰だよ」
訝しげに見当たらない声の主に問いかける。しかし
―後々知ることになるだろう。いい天気だ―
と明らかに答えにならない返事をされるだけだった。しかもそれは「焦らずともよいこと」についてか「誰かについての答え」かどちらに対する返事なのか正直戸惑った。それでも答える気がないらしいので諦めた少年はふとお尻のあたりの妙な違和感に気付きそっと手を触れた。

「…ん?」

それは、丸くてふわふわしたものが「生えていて」…

「…なんっだこれ…痛ッ、取れねえ!」
思わず引っ張ってみた。しっかりとお尻から生えていてはなれない。服にはそれを通す穴が空いていた。
―そりゃあそうさ―
謎の声が笑みを含んだ声で彼を小馬鹿にした。
―君は兎、なんだから尻尾と耳は生えてるのは当たり前だろう―
さすがの少年も内心腹を立てる。痛みのあまり八つ当たりもしたくなる。それにぱっと見て自分は人間である。それぐらいは明瞭だ。
「はァ?ヒトに尻尾はねーだろーよ。耳は生えてるけど…。」
そう文句をたれつつ一応自分の耳の位置を確かめる。



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