■ 6

しまいには一瞬、頭に過る「かつて足が不自由だった少女」。シフォンは深いため息をついた。余計なことばかりと言っておきながら余計なことばかり思い出してしまっていると後悔するのだ。

「あ…シフォン。見てみろよ。」
シュトーレンが何かを指差す。テーブルの上だ。

「鳩がいるぜ。」
シフォンの傍で皿の周りを執拗につついている一匹の薄灰色の鳩が時折首を前後に動かしていた。
「相も変わらず平和ボケしているなあ。」
鳩の方はこちらの会話がわかるわけもなく、気配には気づいてるが随分呑気にこぼしたかすを食んでいた。

「豆鉄砲…とやらは残念ながらないのでね。びっくりするかどうか…」
シフォンはその辺にあったデザートナイフを片手に取り、思考する間に器用に指先だけで回したと思えば狙いを定めてなんと鳩めがけて力いっぱい突き刺した。
「うわあっ!?」
あまりの突然のことにのけぞったのはシュトーレンだった。椅子ごと後ろに引っくり返りそうになるがなんとか持ちこたえる。

「……………」
舌打ちするシフォン。今ごろは手元にナイフが深々と貫かれた運の悪い鳩の憐れな体躯があった…はずなのだが間一髪で避けたのだった。殺意は感じ取ったようである。

「乗ってるぞ!?なんか乗って…乗ってるぞ!?」
肝心の獲物はいつの間にかシュトーレンの肩の上にちょこんと乗っていた。


[ prev / next ]
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -