■ 56

―――――――…

「もしもーし!マーシュいるかー?」
まだ昼間で今日は曇りらしく湿り気味の空気の満ちた林の中の住宅街。似たような家がぽつりぽつらと並ぶ。そこに、黒色のうさ耳のついたフードを被ったシュトーレンが一軒のレンガで作られた小さな三角屋根の家のドアを三回叩きながら中まで届くように声を張った。するとすぐに乾いた足音がこちらに向かってきてドアが開いた。

「はいはいはい!マーシュいますよ!」
慌ただしく出てきたのは白い無地のタンクトップに下は薄い水色に似た色のストライプが入ったおそらくパジャマ、更に裸足とラフを通り越して生活感丸出しの出で立ちの青年だった。
「…お前は、確かシフォンのお手伝いさんの…」
瞼を擦りながら欠伸をするあたり、マーシュは今起きたばかりと言える。
「お手伝いさん?…俺はシュトーレンだぞ。」
「そうそれ!いやあこんな格好で悪いな。バイト休みの日は昼まで寝てて…。」
うろ覚えなのが微妙に気に入らなかったシュトーレンはやや膨れ、それをマーシュは察してなんとか話を逸らそうとした。もちろん、シュトーレンにバイトという言葉はわからない。
「マーシュ、お前シフォンに注文してただろ。取りに来ないから届けに来た。」
そう言って流されたシュトーレンが片手に抱えていた荷物を渡す。透明のプラスチックの箱に入っているのは色とりどりの花で飾ってある麦わら帽子だった。

「あー、頼んだなあそういえば。」
マーシュは荷物を受け取って感嘆の声を上げながら隅々まで凝視した。仕上がりには満足のようだ。
「まさかお前がかぶるのか?」
シュトーレンが小首を傾げる。まさかと言わんばかりにマーシュは笑い飛ばした。
「あっはははは!いやいや、俺がこんな派手なもん被るかよ!もうすぐ誰かの誕生日だからさ…ほらここにタグついて…」

とまで言って突如黙り、何か大事なことを忘れたように難しい顔をして考え込む。
「…あれ?んん??」
「どうした?」
シュトーレンもつられて難しい顔をする。マーシュは帽子に付いている小さなタグをただただ見つめながら唸った。

「…なあおい…「Prim」って…誰だ…?」
「知らねェよ。お前の知り合いじゃないのか?」
他人事のようにあしらわれ余計にマーシュは思い出そうとする。

「いや…誰だコイツ…」
そのタグの後ろには更に「4/1」と筆記体で綴られていた。




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