■ 2
耳元には何も、ない。いや…かすかに手の甲に触れた。
「あ?」
迷いもせず毛ざわりのいい「何か」を目もくれずに指で引っ張る。
「…ひゃん!!…っうええ!?取れない!」
―…何をやっているんだね、君は―
咄嗟に喉の奥から不意に出た甲高い声、体に走る変な感覚と触れたものが明らかに自らの頭部から生えていたのを確かめ一気に動揺した。謎の声は呆れている。はたからは一人で勝手にパニックを起こしているようにしか見えないのだから。
「おい…」
まだ混乱気味の少年が信じられないといった様子でおそるおそる自分の長い耳を凝視した。紛れもない、茶色い野うさぎの耳。リアルすぎていまだに実感がわかない。
―まだ疑うようならもっと強く、引きちぎるぐらい引っ張ってみてはいかがかね。あまりおすすめはしないが…―
「アホか。んなこたぁ聞いてねェよ」
本当はもっと聞きたいことは沢山あった。深いため息を吐いて頭を雑に掻いた。口が悪い聞き方にも謎の声は物動じしない。
「俺は一体何者なんだよ。」
―………―
謎の声が途端にだんまりを決める。
「…………」
―…………。―
「………俺は何者なんだよ」
もう一度、低い声で同じ質問を投げ掛ける。
―…君は、三月兎としてこの国に産み落とされた
「三月兎?なんだかよくわかんねェ単語ばっかだなァ。…それが俺なのか?待てよ?」
少年はふと空を仰いだ。その先には鳥が数羽しか飛んでないが。
「産み落とされた?」
―そうさ。記憶がないのも辻褄が合うではないか。いわば赤子と同じである―
言われてみればそうだ。 実際「辻褄」という言葉を理解してはいなかったのだが、今日今のままの姿で誕生したとしたらそうなるのだろう。
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