3

実質、アリスが決めた行動にどうこう言う筋合いはない。いくら森の主だとしても。

「……戻れない、お前は絶対に。」
ただの独り言だったが、神経過敏になりつつあるアリスは立ち止まってすぐに振り返った。
「ここまで迷って来たお前は絶対に戻れない。この森………「迷いの森」はそういう場所なのだ。」
「ためた割りにはそのまんまよね。」
やはり余計な一言が出てしまうアリス。でもおかげで僅かながら緊張が解れたような気がしなくもなかった。
「で、迷いの森っていうのは…。」
アリスが最後まで訊ね終わるまでに勝手に話を始める。
「通常、此処にはある目的で訪れる馬鹿が殆どだが、お前のように偶然迷いこむ者もいる。その中でも無事に帰ろうとすれば帰れる者とさ迷い続ける者とがいる。何故だかわかるか?」
なんて聞かれても「そりゃそうだ。」としか答えようがない。なのにフェンネルは黙りな彼女を鼻で笑った。
「阿呆にはわからぬか。」
これにはアリスもカチンときた。一発反論してやりたい気分だった。
「だってわからないんだもの!」
堂々と、声を大きく主張したのにはたから聞いたらただ阿呆を晒しているだけにしか聞こえない。結局はなんにもわからないのだが。
「心に迷いを抱える者は、その迷いが拭えぬ限り決して出ることはできない。」

「…心に迷い?私が?」
自分に問いかけてみても答えは出てこない。
「そんなもの、あるわけ…。」
「例えば。」
アリスの背後の幹がしっかりと張った太い樹から声がしたものだからたいそう吃驚した。
「樹がしゃべった!?」
目を丸くさせ、麓からてっぺんまで隅々眺めてみても何処にも口などついていない。樹は構わず続ける。
「…っ、あ…いや、例えば「アリス」になれるのかなーって迷ってたりして。うわあいたいよー。」
声が微かに震えている。笑いをこらえるのに必死なのが伝わってきた。
「……………。」
試しに拳を入れる。ドシンという鈍い音と葉が擦れる音、そして痛みを訴えてくる棒読みの声が聞こえてくる。樹の更に後ろから。
「私がアリスよ!出てきなさい!」
人の気配を察したアリスがむきになって後ろ側に回り込むと乾いた足音と共に、何者かが樹に沿って隠れながら逃げ回る。
「その点での心配は特に無さそうだな。」
フェンネルはアリスと誰かの終わらないおいかけっこを傍観していた。
「それか、本当はまだ帰りたくないなーって考えてたりしてない?」
明らかにからかっている様子だ。アリスは真っ先に否定した。
「なわけないじゃない…うわっ!?」
逃げていたはずの人物がアリスの追う方向に顔を出した。至近距離に迫った見知らぬ顔がこちらをじっと見つめる。金髪碧眼でアリスと同じ年ぐらいの中性的な顔立ちをした少年だ。
「うーん。割りとそこら辺でよくみる普通の女って感じだよね。」
と言い放った彼がひょっこりと樹の影から現れる。確かに、彼女もまた金髪碧眼の少女というだけで容姿だけで見れば特に際立った個性もない。淘汰の国でこそ優遇されているものの万人を魅了する美少女でもない、「ごく普通の少女」。だが、そこをあえて気を遣うなどの謂わば社交辞令がなってないようだ。

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