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「いった〜い!いきなりこんなことするなんて、礼儀がなってないわ!頭が割れるかと思ったじゃない!」
自分の態度を棚にあげるアリスにフェンネルはいたって冷静だった。呆れて咎める気にもならなかったのか、心が広いのか。
「…割れる?いっそその方が面白い。」
「……………。」
恐らく前者の方だ。
「ごめんなさい。私の「知り合い」に貴方と顔がそっくりな人がいて…。」
アリスは元いた世界のほんの昔の出来事を思い出す。社交性の豊かな彼女は友人も多かった、家族の誰とでも仲が良かった、衝突をする事もあるが少なくとも「嫌い」と言える人はいなかった。けど、嫌うのと嫌われるのとでは大きく違う。彼女を嫌う人物は、自分が知る限り「一人」いた。

だが、別に口に出す程の理由ではない。会ったばかりの人に「初恋の相手にそっくりで、その人は私を酷い言葉で振った。」と言った所でお互いにどうしようもない。
「初恋の相手にそっくりでそいつはさも酷い言葉でお前を振ったのか。」
全て口に出ていたのだが。
「あ、しまった!えーと…。」
無意識だったのだろう。普段の悪い癖が影響してしまったのかもしれない。
「どの世界にも、己と似ている者は三人はいると言われている。…その知り合いとやらは幸せ者だ。俺と似ているのだろう?」
と、フェンネルは慰めのつもりで話しかけているのか知らないがとてもそうには聞こえなかった。
「しかし、俺という存在は唯一無二だ。俺以下でもなければ俺以上でもなく、俺は俺であり─…。」
「もういいわ。」
そこまで自己主張をされたらうんざりしてくる。一度の会話に何回一人称を連呼したら気が済むのだろうか。
「そうか。…用がないのなら今すぐ立ち去れ。」
ようやく本題にはいった。でも可哀想なアリス。立ち去ろうにもそれができたらとっくの昔に引き返しているものだ。
「私もそうしたいのだけど、迷子になってしまったの。」
まっすぐ歩いていただけで道に迷うなんて事態がそもそも有り得ない。迷いようがないのだ。ところが淘汰の国に来てからというもの、奇妙な出来事にたくさん遭遇しているものだから特段驚いたりはしない。むしろいい迷惑でしかない。
「ふむ。普通は迷うわけがないのだが…。」
と訝しげにフェンネルは睨むが、そんなことをそちら側が言ってしまったらアリスには為す術がない。我慢していた溜め息がついに漏れてしまった。
「はぁ〜…もう、いいわよ。」
と言ってくるりと背を向ける。
「何処へ行く?」
「決まってるじゃない。」
振り向きもせず淡々と返した。
「戻るのよ。まっすぐの道で迷ったから不安だけど、逆に元来た道を辿っていけばいいんじゃない。貴方に期待してみたけど最初からそうすれば良かったわ。」
一言多いものの、アリスの言い分は大体正しかった。


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