「…………うっそだよーん。」
と顔を上げて悪戯そうに舌を出している。勿論、彼の身体には穴の空いた跡も傷もない。現に痛そうな様子もない。
「……もう!!からかったのね!!心配したんだから!!!」
心配して損した上に馬鹿にされたとアリスは頬を膨らませ立ち上がる。
「まーまー。猫もろくに心配されたことないんでね」
チェシャ猫も身体を伸ばし、呑気そうに大きな欠伸をしながらアリスの前に身軽そうに回ればいつものように薄ら笑顔を浮かべて
「行こうアリス、もう誰もいない」
「え、…うん!」
今度は同じ歩幅をあわせて歩き始めた。
「…いやー、でもへんてこりんなヒトだったね。」
「そうねー。」
先程の危機感はどこへやらと今やもう過去のように話している。
「なんだか憎めないけど」
アリスが小さく笑いながらそう言うとチェシャ猫は
「あいつらは猫を憎んでたようだけど。」
と返したのでそれ以上何も言わなかった。どちらが正しくもあり、悪くもあるのだから一方を責め一方を庇いたくはなかったのだ。少しやり方はえげつないが。
ドッチガタダシイ?ナニガタダシイ?
「………ッ!!」
アリスに突然激しい頭痛が襲う。そして同時に、頭の中に直接入ってくるような誰かのどこか聞き覚えのある声…
「アリス?」
異変に気付いたチェシャ猫は顔を覗き込む。頭痛はほんの数秒だけだった。
「…ううん、何でもないわ。行こう」
「………。うん」
二人は気を取り直して道を進めて行く。
「……………………。」
アリスはまたもや、ゆらゆらと揺れる尻尾に釘付けだ。
「…………!」
そうだ。先程のチェシャ猫のように、もしかしたらこの尻尾もまた物をすり抜けてしまうのだろうか。
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