「……尻尾はやめてね。」
「…う、うん……。」
見透かされていた。
「んで何を思い出したの?」
「夫人にはね、赤ちゃんがいるんだよ。」
「…え、ええっ!?うそ…やだっ、赤ちゃん!!?」
「どうしてそんなに驚くのさ。」
驚かないはずがない。なんせ夫人ら見るからにアリスと同じぐらいの10代前半の少女だ。夫人という以上誰かの奥さんだとまでは思っていたが、か弱そうだしあの身体と年齢でよく子供を産めたものだと感心した。
「へえ〜…見たかったなあー…。」
「あんな危ない所で?赤ちゃんにナイフなんか刺さったら本当の意味で赤ちゃん…」
「言い方ってもんがあるでしょ!!」
そう叱り付けられると「あはは」と面白そうに笑っている。さてはこいつ、からかっているようだ。
「言っとくけど、夫人の子供ではないんだって。」
「誰の…あ。」
そこまで言って途中でやめた。
実際、特に問題もない普通の家族に生まれたアリスだが他人の家庭の事情に首を突っ込むのはあまりよくないと周りを見ていつしかそう学んだのだ。
子供がいたと聞いた時は年頃の少女のように恋愛話にまで興味を持ったが子供ではないと聞いてから何も言わなくなるアリスは少女というより子供らしさもなかった。チェシャ猫は猫らしく人の事情などお構いなしだ。
「さあ。誰がパパだーとかは教えてくれないんだ。ヒトのれんあいじじょーなんか興味ないし。」
「そうよね。」
猫らしい意見だ。逆に助かる。
「拾ったのか預かったのか。まー捨て猫を拾って世話するぐらいお人よしなんだからいいんじゃない?」
確かに。夫人ならそのような雰囲気がする。
「猫さん。でもそういうのはお人よしじゃなくて、優しいて言うべきよ。」
「……ヒトの言葉って難しいなあ。」
そんな、二人で会話をしていたその時だった。
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