「あなたの言ってることは間違ってはいないけど、私の聞いてることには答えてないじゃない。」
「答えてはいるよ。」
確かにしっかりと答えてはいるのだ。しかし先程から二人の会話はあんまり会話になっていない。アリスはこれはダメだと諦めてしまいそうになる。
「話が全然合わないわ」
「合わせる気ないもん」
その言葉に何か言い返したそうにするも、相手は何一つおかしなことを言ってない。合わせる気のない相手に無理強いもしたくないアリスは退屈そうにチェシャ猫の隣を歩く。
そういえば出会った時からずっと笑顔を崩してない。にんまりと笑ったまんまだ。一体何を考えてるのだろう。そんなに面白いことでもあるのか、だが「あなたは一体何を考えてるの?」と聞くのはあまりにも無粋だと考えた。
「君は、一体誰?」
今度はチェシャ猫の方から話しかけてきたのでアリスは「やっとだわ!」と何がやっとだか知らないが暗い顔が晴れやかになった。
「私はアリス。アリス=プレザンス=リデルよ!」
「……へー…「君も」か…。」
「君も?」
チェシャ猫は「いやーなんでもない、あはは」とか言って笑顔だがどこか困った様子で慌ててはぐらかした。疑問には思ったが、「こんな顔も出来るんだ」とぼーっと考えていた。
「でも君はまだアリスじゃない。」
「……………は?」
またいつもの笑顔に戻ったチェシャ猫から唐突すぎるそれに一瞬アリスは何を言われているかわからなかった。すぐに理解した。だが理解しきれなかった。
「…わ、私はアリスよ!?」
「なんで?」
「この国に来てからはみんなアリスだってウサギさん言ったもの!」
チェシャ猫は態度も何も変えない。もはやその笑顔が不気味にさえ思えてきた。
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