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「美味しいご飯をありがとうございました!」
玄関の前、アリスは出る時まで見送ってくれた夫人に頭を下げた。来た時と比べたらこんなにも笑顔に満ちている!夫人の表情は出会った時のような穏やかさを取り戻していた。
「こちらこそ色々ありがとう。…今度はもう少し豪華なおもてなしをさせてね?」
「期待しているわ!」
門の前では執事やメイド、その中にはあの蛙執事もいる。出向かえてくれた皆が綺麗に横一列に並んで「またのお越しを!」と元気のいい声で見送ってくれた。
「またねー!!」
アリスも向こうが見えなくなるまで振り返りながら手を振って歩き、向こうもアリスが見えなくなるまでじっと門の前まで立ち続けていた。
「なんとか喜んでいただけたみたいでよかったわー…」
と夫人は部屋に戻ると、何かが足りない違和感に気付く。
「チェシャ…猫…?」
そう呼ばれたものは、部屋のどこにもいなかった
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「…ちょっと危なかったけど、ご飯は美味しかったし、話も合ったし、今までで1番楽しかったかもしれないわ!」
随分上機嫌なアリスは雲一つない青空を見上げながら足取り軽やかに道を進んでいった。
チリン
「……?気のせいね。」
チリン
「……なに?」
鈴の音が、まるでアリスの後を追うように鳴る。
「あいつらは君じゃなくて、アリスを迎えただけなのにね。」
「!!?」
不気味に思いしずかに足を止め勢いよく後ろを振り向いた。だがそこには誰もいない。自分の歩いてきた道が伸びているのみだ。
「…なんだったの…」
不安そうに前を向くと、少年…いや、チェシャ猫がいた。勿論、わずかに人影らしきものも見ていない。首輪には鈴がついている。
「一体どこから…?」
「猫はどこからでも現れるよ。」
驚きと混乱を隠しきれないアリスに対し、チェシャ猫は出会った時と変わらない、薄い笑みを浮かべている。
「君はこれからどこへ行くんだい?」
アリスは「うーん」と頭を押さえ難しい表情になった。どう返していいかわからないのだ。
「…それが…わからないの…この先に…何があるか…。」
「わからない。ならば。」
チェシャ猫は背を向け、振り向いた。
「行ってみる?猫も暇でさ。」
「………………。」
果たしてこんな何を考えてるかわからない人についていっていいのだろうか。今のアリスはもう、前に進むしかないのだ。
「……ええ、行きましょう。」
そう言ってひとりでに歩くチェシャ猫の後を追いかけた。
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