淘汰の国のアリス | ナノ

「………………。」


しばらくしてから後ろを振り向く。人影などはなかった。

「……やれやれ、とんだ小娘だ。」
そう言って、シグルドは傍らに置いてある難しそうな本を手に取った。


「まーたじじくさい顔してる。」


突然、上から声がした。しかし全く動じない。シグルドの居座っているキノコには日が暮れ夜になって周りが暗くなった時のためにランプがさがったアーチ状の金属で出来た柱が建てられている。その上に、気配もなく現れた。長い尻尾が後ろでゆらゆらと揺れ頭に時折あたるのがうっとうしくも、本から目を離しはしない。上にいる何かは気にせず話しかける。

「もう少し素直になったら?気持ちを隠しといてわかってほしいなんてどうかしてるね」

「…私は貴様の存在がどうかしてると思うのだがね…」

しまいには苛立ちで顔が引き攣っている。すると何かは柱から顔を覗き込む。しかしなんとシグルドは微動だにしない。

「…相変わらず神出鬼没だな!邪魔しにきただけなら帰れ!…夫人殿に何か言われても知らぬぞ…!」
「出たーツンデレ!」
からかうように言った直後シグルドはポケットの中のキノコを何かにめがけてぶん投げる。だがしかし、それは確かに何かに向けて投げたはずだが「すり抜けて」向こうに飛んでいった。

「…くそ…ッ」
「まーそーイライラしない」
じっと睨まれても何かはへらへら笑っている。

「今度のアリスはどうだった?」
まともに会話が成り立つと信じて咳ばらいをして一旦気を落ち着かせた。
「よくも悪くも図太く厚かましい小娘だ」
「よく言ってないじゃん」

でも何かはずっと笑顔だ。そう返してくるのも想定内だったのだろう、シグルドはあらためて押し花が可愛らしい栞の挟んであったページに視線を移しながら言った。

「しかし、゙アリズにはなるにはあれぐらいが相応しいのではないかね。」
「ふうーん…。」
何かは顔を上げ、柱から後ろのキノコに飛び移った。

「猫にとっちゃあ、別に何でもいいんだけどね。」
そう言って、鈴の音とともに空間の中に消えていった。





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