「………アリス?」
犬の耳と尻尾を生やした長身の青年が鼻を時折動かして深い森をあっち見たりこっち見たりしながら歩いていた。
「臭いはするんだけど…」
犬は人より格段に優れた嗅覚を持っている。青年は唯一の武器を活かして一人の少女を探す。
チリン
「……………!?」
何者かの気配を感じた青年はすぐさま警戒に入る。
チリン
「………鈴?」
静かな森の中にこだまするように鈴の音が聞こえる。
「………やあ。アルマ…いや、犬君。」
突如聞こえた声に緊張を緩めたが、その青年…アルマの表情にはまだ険しさが残る。もちろん、その声の主がどこから聞こえるかや誰なのかも把握した。
「お前か…相変わらず退屈なのか?」
「…まーね。」
謎の声は、姿を現さないまま話を続ける。
「ちなみに犬君が探してるアリスってのは、多分もうじき夫人の家に来るかもね。」
「…そうなのか!?」
アルマは途端に表情が和らぎ身体に込めた余分な力も抜いて、伸びきった尻尾を微かに横に振った。警戒心を解かれたのをいいことに謎の声の主は高い木々の間から首「だけ」を覗かせてこう言った。
「だって、そういう風になってるもん」
→