淘汰の国のアリス | ナノ



「…遅いな…。」
茂みからウサギの長い耳が飛び出したように現れた。そして立ち上がり、沢山の枝ををかきわけて森を抜ける。髪や服に着いた葉っぱを大雑把に掃うと不機嫌そうな顔できょろきょろと見回すと誰もいない。肩を下ろし深いため息をついた。

「ん〜…仕方ないな。自分で取りに行くか。」
そう言った時、背後から誰か近づいてくる気配を感じた。警戒してポケットに手を添え後ろを振り返る。そこには長いスカートを揺らし、素朴で飾り気のないいかにも正統派メイドのような格好の女性が足音控えめに自分の元へ向かってくる。ピーターは知っている人物だったのかポケットに回していた手を下ろしたが表情は厳しいままだ。

「…メアリー?お前…さっきあそこにいたのでは?」
メアリーと呼ばれたメイドは抑揚の声で言った。
「いえ、私は少しばかり町に買い物に行っていました。番はビルに任せてあります。…おや」
ピーターがまた何か言い出したそうにするもメアリーはポケットから新しい手袋を出してそっとはめさせた。

「…持っていたのか。」
「ご主人様が何かあった時に常にそれに相応しい対応をする、それがメイドの役目ですから。」
「………ふん。」
表情も一切変えないで奉仕するメイドのメアリーに何も言えないピーターはそっぽを向くが、あることに気付き顔の色が徐々に悪くなっていく。


「…ってことは…おい!さっき家に入っていったのは…!!」
酷く慌てる主人とは対称的に冷静になだめた。
「ですから、番はビルに任せております。元、「掃除屋」の彼に掃除出来ないものはないかと…。」「あいつは信用ならん!!!」

ピーターはメイドの他に掃除を専門にして雇われているビルという男が住んでいる。元掃除屋…つまり殺し屋という肩書きのおかげでどこにも雇ってもらえない所を「綺麗好き」というだけでまんまと引き受けたわけだ。実際には誠実で「こっちの掃除屋」の仕事もきちんとこなしているわけだが、あまりにも熱心になりすぎて周りに目が向かないことがしょっちゅうある。ピーターは急いで家の方へ向かった。






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