「…メアリーって…誰…なの?」
力なく座り込むアリスに青年は小声でぼそぼそと言う。
「白ウサギにはメイドがいるらしい。多分そいつと間違えてる。女だもん。」
「ウサギに…メイド…」
「あいつ偉い奴だからね。当たり前。」
「偉い奴なの!?」
「聞いているのか!!!」
また余計な想像を頭の中で膨らませている最中ピーターの怒鳴り声が見事に粉砕した。「なにもあんなに怒らなくても…」とアリスはごねる。
「私の部屋に新しい手袋があるはずだ。今すぐ取ってこい。」
「わ、私がぁ?」
人違いとはいえ指定されてしまい素っ頓狂な声が出た。でもアリスのポケットの中にはすでに手袋がある。
「だから道に落ちてたの!!!」
声もかすれそうなぐらい叫んだがピーターからは軽くあしらわされる。
「なんにせよ汚れた手袋では相手に失礼だろう。」
言われてみれば実にその通りだ。
しかもおもいっきり踏んでしまったし。
いろいろと返せる状態ではない。
アリスは青年の手に乗せてもらったままピーターの家に足を入れた。
家は、メイドを雇っているぐらい偉そうな奴が住んでいるとは思えない質素な二階建ての木造建築である。住んでいる屋敷の中にすっぽり収まりそうなぐらいに小さい(アリスの家がとても大きいのもあるが)。屋根には二つの煙突が立っておりまさしくウサギのようだ。
淡い色のドアを開けば中もまた木の板が敷き詰められた壁と床…だが木々ひとつひとつがワックスをかけたみたいに綺麗で、床は薄い真っ白なカーペットが敷かれ、真ん中より少し窓際の丸いテーブルにはティーセットと軽い茶菓子があり、ベッドもシワがほとんどない。まるで新築のような、シンプルかつ清潔感のある家だった。
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