淘汰の国のアリス | ナノ

……―――――……


「…行ってしまったねぇ」
色がマーブルに混ざりあうただの液晶を見つめながらジョーカーは、感慨深く、同時に漸く平穏な静けさに戻ったのとで安堵に大きく一息吐いた。シフォンは彼女がいなくなった度、すまし顔で腕を組みたたずんでいる。

機嫌が悪いわけではない。それとは違うところに違和感を覚えたジョーカーが感情の読み取れない笑顔で固めた笑みで彼の方を振り向く。

「……これでやっと、「不思議の国のアリスは見つかりました、めでたしめでたし。」というエンディングを迎えたわけだ、シフォン。いや、「物語の作者」…しかしながら、なぜだ。」
手先で毛の乾いた筆を器用に回しながら彼に問いかける。
「何故―…アリスから「この国にいた時の記憶」を全て消し去る必要があるのかね?」

ジョーカーの態度からはさほど深刻なことではないかのように窺わせる。シフォンは、幸せそうな笑みを溢す。

「彼女らの世界において異世界は「存在しないもの」。だからあるだけ邪魔だし、彼女にとってもだ。」
ジョーカーは「ふぅん」と流し返事して
「まあ君が言うなら私は何も言わないけど。…でもシフォンはそれでいいのかい?この国のことを忘れる、即ち君のことも忘れてしまうんだよ?」
肘は力を抜いてびしっと人差し指と親指だけで筆先を彼に向ける。笑顔はない。

「…いいのさ。アリスの幸せに繋がるなら。愛する人の幸せが僕の幸せでもあるんだよ。」
「…君の愛は、残酷だな」
呆れて肩を竦めるジョーカーの発した言葉が淘汰の国で結果的に何を生んで誰を失ったのを意味しているものかを理解してしまったシフォンの笑みに自嘲が混じる。
だが、シフォンはそのまま背中を向けて前へ歩む。

「…もう帰るのかい?」
ジョーカーの退屈そうな声に呼び止められた気がして一旦足を止める。
「お前はまだやることがあるだろう。僕も急遽エピローグを追加したくなってね。時間を悪戯に歪ませた犯人をこらしめる、ていうエピローグさ」

そう去り際に言い残し、意味ありげに冷笑してこの空間の出口を開けた。



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