淘汰の国のアリス | ナノ

そもそも常識とは一体何だったんだろう。原点から覆されそうになった。今の自分が置かれている時間はそんな些細な事を考える余裕すら与えてくれなかった。
「さあ、世界を探りだすまでの時間は刹那。…せめて、そこにいる者には何か言ってやってくれ」
ジョーカーは更に
「一番君を心から心配していたのは彼だ」
と誰の耳にも届きのしない声で呟いた。勿論、アリスにもシフォンにもそれは小さな雑踏に相殺されて聞こえることはなかった。

「え…えっと…」
急かされてるのも同じ、あまりの迫られた時間内で思い付く気のきいた別れの言葉などアリスの言葉の引き出しにもない。
「…あ、あの…その、私…この国に来れてよかったっていうか…楽しかったし…みんな、面白い人ばっかで…」
いざシフォンと向き直ってみると更に言葉が飛んでしまい散らかった台詞を集めても鳴り始めた時計の針の音が言の葉の欠片をまともに繋げようとするのを邪魔する。このまま黙っても迫り来る最後の刻。
「ちょっと怖いこともあったけど…でも、多分、いや絶対私…おっ、覚えてるから…!」

この国に来て初めての友達や自分達のために消えていった命の形もはっきりと、忘れたくない。本当はもっと、この国について話したいことはあった。最後ならばいくらでも自慢話のように語り尽くしたかった。言えるだけ言いたかった。一番自分を想ってくれていただろう彼に。

減りゆく刻に言葉も削られる。

「…………」
一方でシフォはここんな状況においてすました顔でこちらの様子を他人事みたいに眺めてる。まるでこれでは最初に出会った時の彼と同じだ。

しかし、そうでもないと感じるのは、見る目がやたら穏やかだったといったところか。もしかしたらアリスが言い終わるまで黙って聞いているのかもしれない。




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