淘汰の国のアリス | ナノ

「やれやれ、こういう時こそレディーを慰めてやるのが紳士だろう。」
アリスは咽ぶことなく、拭うものの意味なく、ただとめどなく一筋から一粒、二粒として頬を無視して床に滴り落ちる。
「そんなことだから君は大切な人に会うことすら臆するのだよ」
「それとこれとは関係ない!!」
ちょっとした皮肉にむきになり口を尖らせるシフォンを尻目にジョーカーはアリスの頭に優しく触れた。
「大丈夫。何も悲しむことはない」
アリスが今求めているのは慰めではない。
「あの…せめて…」
彼女は潤んだ瞳で彼に聞いた。
「みんなにお別れの挨拶をしたいの」
時計屋だからきっとなんとかしてくれると信じたアリス、だが彼はそれ以前に「ひとでなし」であったので
「それは出来ないな」
と穏やかな笑顔で一寸の気の迷いもなく彼女の願いをいともあっけなく拒否した。

「私は終わりを遂げた物語をひとつの世界へと独立させるためにやらねばならない事が沢山ある。それに言ったはずだ。事は急いでいると…」
彼の瞳はいつしか笑っていなかった。アリスも徐々に考え出す。ジョーカーは見た限りさながら饒舌で気取り屋な形振りが目立つが本当にこの世界とあちらの世界のバランスを維持しているのならさぞかし重荷だろう、と。大袈裟ならば彼は世界規模の責任を一人で背負っている、と。それに比べたら世界の中でたいした柵もなく生きてきた自分はよほど小さな存在だと。

おそらくこの国にくるまでは全然考えもしなかった。彼の話を聞いて尚更考え方も変わった気さえしたのだった。





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