その刹那だった。そう、何もない壁だった。正式には何もないわけではなくポスターやカレンダー、先程の時計も含めていくつかの物が画鋲などで固定されていたがそれでも壁には変わりなかった。
アリスはまるで魔法でも見せつけられているようだった。
シフォンが本当に魔法の呪文を唱えたかのようだった。
目の前の壁に突如、ブラックホールにも似た漆黒の巨大な穴が現れたのだ。しかし似ても似つかないのは、そこから台風でしか体験しないような突風がこちらに向かってとめどなく吹いてきたのと、いつからかどこかで鳴り始めた歯車が忙しなく廻る音。これはただの穴ではない。
「きゃあ!!」
吹き飛ばされそうになったアリスは咄嗟に目をぎゅっと強く閉じて両手で前をかばう。なんとか足を踏ん張って立っていたがシフォンは微動だにせずただ穴を睨んでいた。
「…………」
「………止まっ…」
しばらくして風の勢いは緩和していった。部屋が更に散乱してせっかく整えたシーツが吹き飛ばされて向こうの壁に張り付いていた。
ぴたりと風が止んだところでおそるおそる目を開ける。
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