―――――………
――……アリスちゃん……
―…アリス…―…
「お姉…様……」
開きたくもない瞼に外光が射し込んでくる。アリスはいまだにしつこく残る自分の名前を呼ぶ声をなんとかしたくて、またはその声がひどく懐かしく思えて、微かに手に触れる布を掴んだ。そしてそっと、瞳をあけた。
「悪かったね、僕で」
よりはっきりと耳に入った声は現実味を帯びていた。視界には、こじんまりとした照明がぶら下がった木の板が並べて作られたような天井。掴んでいたのは黒く長い布で、声の主は…
「…帽子屋さん!?」
役は帽子屋の青年、シフォンだった。アリスは驚きのあまり勢いよく体を起こした。
「いかにも」
まるで初めてお互い会ったみたいな一言だけ返した。更にアリスが驚いたのは、いつの間にか自分がベッドの上に寝かされていたことだ。一方シフォンはそのベッドの、彼女の側に腰を下ろしてこっちの様子を伺っていた。
「………なっ…なんで?ていうか…あの、ここはどこ?」
辺りを見渡してみると、そこまで広くもない部屋の一室のようにも見える場所だった。シフォンのすぐ後ろには学習用の机がこの中でおそらくベッド以上に存在感を放っていた。
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