「…早くこの小娘と罪人を捕らえぬか!!誰か…誰でもよい!早く…早く…!!妾の命令が聞けぬか!!」
しかし、何の音沙汰もない。妙なほど静まりかえっている。
「妾はこの国の女王だぞ!?」
虚勢を張っている一国の統治者のなけなしの命令は誰にも聞き入られることはなかった。にしてもこのあまりの静寂はおかしい。向こうからの兵士のざわめきすらぴたりと止んだような、今更手のひらを返したのだろうか。誰ひとりも城から出てこない。空気の変化も感じる。
その時だ
「…アリス!今だ、女王を倒せ!」
城門の方から声がする。振り返ったらそこにはライフルを脇に抱えたシフォン、レイチェル、フランネルとアリスと行動を共にしていた仲間が。それだけではなかった。この国の住人だろうかなりの大勢の人が駆けつけていた。さっき叫んだのは声からしてレイチェルだった。
「え…?」
アリスはまだ温かいチェシャ猫の屍を優しく地面に置いて何が何だかわからない様子で彼らを視界に入れる。彼らはこちらには来ない。あれだけの人がたったひとりの死を望んでいる様はとても異様で気持ち悪さも覚えた。そのなかでレイチェルは真剣にこちらに何か違うことを伝えようとしている。
シフォンがそれを遮って。
「今はフランネルの催眠術で奴等は眠っている!だがそう長くはもたない!…アリス、君の手で女王を倒さない限り物語は終わらない!!」
今までアリスにとって彼の言葉に幾度となく救われてきた。この瞬間でもシフォンだけは周りと違う目をしていた。そう、アリスについにやって来たのだ。アリスがこの国でいう「本物のアリス」になるべき瞬間が。だがアリスは葛藤した。
自分がアリスならそれでいいんじゃないか?
こうでもしないと自分はアリスではないのか?
だがこの国ではまた意味が違うらしい。なんにせよ自分にはこれからの淘汰の国の未来がかかっているのだから。自分がよければいいわけではないのだから。
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