淘汰の国のアリス | ナノ





「………な、んで…」

ほんのわずかな時間だった。刹那的な瞬間だった。それでも幾分と長い時が過ぎていたようにも思えた。止まっていたとさえ感じてきた。実際ほんの数秒だったのだろう。彼の知らない時間がその時作られたのか。いずれにせよ、目の前には信じがたい光景が目に入った。

「…これは……」
ジャックの腹に、自らの剣が深々と刺さっていた。

柄から離れていた手、自分でも何が起こったか信じられないようで目を見開いて腹部から突き出ている剣の柄を凝視する。この状況、二人の間合いから考えるには自分で刺したという結論にしか至らないが、当のジャックがあの様子だ。色々と矛盾するところだってある。「なぜ、お前が、どうやって 。」エースは彼がそうなるまでを全く見ていないのだ。

<さすがは私の分身…いや、操り人形(マリオネット)だ。>

ジャックの背後に、さっきからずっと傍観していたかの如く誰かが立っていた(もちろんいなかったが)。
<今回、私もこんな手段に及びたくなかったが…いかんせん、アリスにどうしてもなってもらう事情が出来た。だけどアリスには干渉できない。…そこでだ。君たちを利用した。>
「 ………ことです…か……」
刺さった箇所から全身にまで激痛が廻り、意識を麻痺させていく。剣を伝って鮮血がゆっくりと滴る。
<アリスには女王を倒すには弱すぎた。…女王となったアリスは命令権を与えられた上に私の干渉可能範囲に入る。彼女が女王を処刑すれば…真の女王アリスとなる。>
「儀式も…べて…貴方の…」
「ジャック…お前…誰と話している?」
なんとエースには声が聞こえないどころか姿すら見えないのだ。ジャックもなぜここまで意識がもつか謎だった。県も柄の近くまで深く身に突き刺さっているというのに。肺に溜まった血が苦しくしわがれた声を振り絞るのが精一杯だ。エースもなぜか、動き出せなかった。

<まあね…しかしジャック。君にああ言ってくれたのは個人的に嬉しいが…。いいかい?物語はそれ以前に「世界」なんだ。世界として存在する以上、臨むのは読者ではない。平和だ>
謎の声は徐々に慈悲を帯びてくる、が、ジャックにもう言葉を返す力もないのを悟れば急に抑揚を含んだ楽しげな声に変わる。

<あの時、まさか自分の意思でかばうなんて。君は所詮道化(ジョーカー)にはなれないのだよ。…残念ながらもう用済みだ。とりあえず…私から力と顔を奪った罰として受けてもらおう>




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