淘汰の国のアリス | ナノ

剣を持っている手を力なく下げる。だが、かつて道化と呼ばれた男はそこにはいない。何やら大切なものを懸けて一騎討ちに臨む戦士の顔をした精悍な輩が二人、互いに頃合いを見計らっていた。

「この国の衰退を恐れているのなら心配ない。後のことは考えてる」
エースも、彼が何故そんなことまで憂いるのかをいちいち気にしている暇などなかった。当然、ケリがつくとも。
「…そういうことを言ってるんじゃありません
。」
ジャックが再び同じ構えで剣の刃を向けた。
「…なら、この<物語>はこれから誰を<主役>に語り継がれていくんです?」
「…ジャック?」
まさか、いや。確かに聞こえた。ジャックの口から「もう一人の違う声」が時折重なるのを。しかしながら当の本人は全く気付いていないのだ。
「<不思議の国の主人公(アリス)>は閉じこめられた物語の主役として<永遠>に<彼等>の中で冒険を繰り広げてくれるでしょう。では、この国の存在理由は?<主役>は誰だ?」
譫言のように誰かの声を交えながら呟く彼に無気味な違和感しか感じなかったエースが目を覚まして欲しいと言わんばかりに声をあげた。
「貴様は誰だ!!」
「………」

一瞬体がぐらつき、片足を踏ん張って、今度は剣の長い柄を音のするほど強く握りしめた。鍔から覗く瞳はなぜか「死んでいた」。エースは感じる。今のわずかな時間に彼の身に何かわからないが異変が起こったことを。まさかとは思うが、誰かに取り憑かれたような。考え過ぎかもしれない。あれもこれも全てジャックの力かもしれない。今は余計なことを気にしている場合ではない。ほら、相手がこちらに向かって走ってくる。



「主役のいない物語など…誰が…誰が見るというのですか!!!」
意味不明な言葉を発しながらエースの方へ斬りかかってくる。おそらく首を狙っているみたいだが倍の実戦経験を得ているエースにとって彼の構えから既に行動を読み取っていた。
「…………ッ!」
足止めにさえなれば、動けないようにさえすればそれでいいとエースは咄嗟に背中のベルトに備えていた護身用のマインゴーシュに手を伸ばす。剣で防御している隙に防備されていない部分をマインゴーシュの柄で力の限り突いて悶絶させて更に気絶させるというのだ。

だが、エースの予測していた結果が突如崩れたのだ。





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