淘汰の国のアリス | ナノ

「いい?どれだけ食べても3分間だからね?」
アリスが半分むしって彼に渡した。
「…ねえアリス…」
手のひらにこじんまりと乗っている(半分に割られた状態なので変な形をした何かだった)キノコを眺めながら彼女の名を呼んだ。
「なに?」
「僕の名前はピーター・クリム・スカーレット。下の名前は女王陛下から授かったものでどれも「赤色」を意味してるんだよ」
なぜ今この時において自らの身の上話をするのだろう。アリスは怪訝に彼を瞳に映しつつ、「scarlet」と「crimson」の言葉を思い出していた。
「…別に、女王から貰った名前も役も嫌ではないし、「赤」も「白」も嫌いではない…でも、僕の好きな色はどっちでもない「青」…なんだ。」
事実、青いワンピースを身に纏っているアリスはどう返していいか思い浮かばなかった。アリスがいる時に話に出すぐらいなら全く無関係ではない気がした。おかしなことにピーターは笑顔だった。

「だけどまあ、仕方ないのかな。白い兎は青い鳥になんかなれやしない。精々、穴の底で待つ死神が末路さ」
その笑顔は、描いていた理想を徐々に壊されていった自分を嘲り笑っていたのだ。黙って聞いていたアリスが頭によぎるは彼が部屋で口にした「幸せの青い鳥」。不思議の国の白兎しかり、淘汰の国の白兎は彼女を異世界に導くだけの存在にしかあらず。そこから幸せへ繋ぐ道を作りその上を歩むのあアリスなのだ。選択肢を間違えればその先にある結末がデッドエンドしかないのなら仕方がないこと。

アリスはまだ、結末に至っていない!

「兎さん。私は兎さんに出逢えてよかったと思っているわ。」
笑顔のアリスが彼の手を握る
「だって兎さんがいなければこんな素晴らしい国に来ることなんかなかったもの。」

「……アリス…」
彼女はやはり、あの頃から何も変わっていなかった。優しく、純粋なまま、まるでここに来るのを準備していたと思わせるぐらいそのまんまだった。ありのままだった。
思わず目頭が熱くなるのを感じたがピーターは、「泣くのは後だ」と心の中で言い聞かせてぐっと堪えた。

「アリス。どうかこの国を幸せへと導いてくれ。」
「えっと…それは…うん。そうね」
感情の高ぶりで目尻がやや紅潮し、顔が熱を帯びる感覚を無視し、ピーターは彼女の手を握り返して真っ直ぐに目を向ける。アリスの返事は難しいものではないが決まっており、彼の意思を強い眼差しから確信した。

「私がアリスになって、この物語を終わらせる。…一旦引くはめになっても、チャンスは絶対あるわ」







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