淘汰の国のアリス | ナノ

「兎さん!」
かすかにしか聞こえてこない声がいきなりボリュームがぐんとあがる。それも随分間近で、誰かがいるような気配さえした。ピーターがめんどくさそうに顔を上げた時だった。なんと目の前には声の主であったアリスがそこにいたのだ。信じられないことばかりだ。ツッコミが追い付かない以前に軽くパニックに陥りかけ、目を見開き指を差しつい大声で叫びそうになった。
「……あ、アリ…んむぐっ!?」
「しーっ!ばれちゃうじゃない!」
小声で叱責しながら反射的に彼の口を両手で押さえ込んだ。こっちもこっちで何が起こったかわからず、確かな掌の感触がただの幻ではないことを証明せや余計に混乱し、しばらくは抵抗したが意外にも力は強かった。ピーターも早い呼吸を落ち着かせ、それを見てアリスも一安心して手を放した。

「…はっ…アリス…なんで君が…どうやってここに…」
一先ず聞きたいことはそれだけだ。まるで瞬間移動でもしたみたいな。果たしてアリスにそのようなトリッキーな真似が出来るのか。いや出来ないだろう。
「猫さんがね、私「達」のためにわざわざくれたのよ。」
そう言ってアリスがエプロンのポケットに手を突っ込んで取り出したのはかさが少しもげたキノコ。ピーター はなんとなく察した。
「シグルドか…」
「ええ。虫さんが猫さんに届けてやってほしいって。3分間体が小さくなるの。」
なるほど、なら彼女がここにいる説明もつく。キノコの効果をかりて壁の小さな穴から侵入したのだったら理解できる。どれぐらい縮む事が出来るかは知らないが、こんな隙間さえ通れるのなら多分ここまで誰にも見つかることはなかっただろう。

「兎さんの分も、ほら、まだたくさんあるわ!」
アリスが彼の手に無理矢理キノコを握らせその上から更に自分の手を重ねる。よく見れば手には擦った痕や服も土埃で薄汚れている。道中転んだりでもしたのか。せっかく綺麗に洗ってもらったというのに。誰かの為に何処まで自らを汚すつもりなのだろう。





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