淘汰の国のアリス | ナノ

ああ、可哀想に。足も、腕も、動かせる。なのに手も足も出ないのだ!この忌まわしく邪魔な首輪がなければ!いや、仮に無かったとしてもどうやってここから外へ「誰にも気づかれずに」抜けられるか、手持ちぶさたな囚人にわかるはずもなく。

「…………………」
この国に、処刑以外の刑はない。
ただひたすら終わりの時を待つしかない。時間は長いと感じ、その時が来れば早いと感じる理不尽なもので、そんなものが支配している世界はもっともっと理不尽で、そうならばあの裁判はある意味理にかなっているのではないかと思えてきた。裁判にかけられて無罪になった者はいない。あの場所に連れられた時点でピーターの行く末は確定したも同じだったというのに。

「………」
ピーターは全てがとても馬鹿馬鹿しくなってきた。処刑といってもローズマリーは斬首刑しか執行しない。苦しむことなく一瞬で終わる。楽なものだ。

だが、わざわざこうしてすぐに執行しないのは、おそらく公開処刑から晒し首にでもするつもりか。自分の身分を恨んでしまいそうだ。公開処刑という言葉からふとローズマリーが昔語ってくれた話を思い出した。ローズマリーかままだ幼い頃。母親でもある先代女王がこの国を治めていた。
先代女王はたいへん優しく争いを嫌う穏和な性格で皆から慕われていた。しかし女王の力があまりにも弱く、絶対王政反対派のデモにより処刑されてしまった。先代女王は最後まで争いを拒み、結果なめられたに等しい扱いを受けたのだった。

今のローズマリーがあるのもそれが全ての原因であり、ピーターが仕事と素を使い分けているのもローズマリーから「なめられたら最後だ」と忠告を幾度と受けたからなのだ。


だけど、自分はしっかりそうしてきたはずだ。

争いとまではいかないが、奴等に内面的な隙を見せた覚えはない。むしろできる限り抵抗した。

逆にその態度が反感を買っていたとしたら、一体自分はどうすればよかったのだろう。

「…僕は…どんな僕なら…なんてわからないな…
もうわからないよ…」

そう呟いたきり、ピーターは目を閉じた。思考するのをやめようとした。

「………兎さん…」
気のせいか一瞬アリスの自分の名前を呼ぶ声がした。いや、有り得ない。きっとあの場所で最後に聞いた彼かがあまりに必死に叫んでいたから耳にまだ残っていたんだと周りを見向きもしなかった。





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -