淘汰の国のアリス | ナノ

もう悠長にしている暇はない。それだけにシフォンには焦りと苛立ち、無力感が度重なって込み上げてくる。出来るだけ早く、一刻も早く。頭の中にあるのは一人の少女の事だけだった。

「落ち着きたまえ、シフォン…」
「こいつのいう通りさ!焦っても仕方ないだろ」
なんとか冷静さを取り戻してほしい二人だがシフォンの焦燥は収まるどころか増すばかりだ。
「じゃあ君達に何か妙案はあるのか!?」
シグルドもマーシュも返す言葉がなかった。
「どうしたらいいんだ…!」
三人寄ってもなんとやら。知恵のひとつも出ないではないか!このキノコさえ届ければ、きっとアリスも、そしてピーターも救えるかもしれないのに。いや、シフォンにとってはアリスさえ「逃がしたい」気分でいっぱいだった。もはやアリスにさせることも半ばどうでもよくなってきた。

アリスが無事なら。

アリスが無事なら…

シフォンの頭にぐるぐると回る言葉。やはり時間はすぎる。


「猫が届けてあげよっか。」

誰もが一斉に墓の方を向いた。夫人、はたまた主人の墓に頬杖をついてにっこりと無邪気な笑みを浮かべて遠巻きにこちらの様子を眺めているチェシャ猫がいた。本当に、気配もなく空気の中から現れたようだ。

「どういう?」
顔を青ざめてどこかへ逃げようとするマーシュの尻尾を微動だにせずひっつかまえながらシグルドが聞いた。
「煙が風に漂う方が速いってことだよ。そいつをアリスに届ければいいんでしょ?いーよ!猫は暇だから!」
さながら子供みたいな笑みだ。よく考えればチェシャ猫は自分の体質について十分理解している。彼は更に体を気体化することも出来るのだ。

「それは実に有り難い!詳細を説明しよう」
「あーそういうのめんどくさいからいらない。さっさと届けてくるよ。」
シフォンの表情も緩む。だがチェシャ猫は彼の親切を断った。そのやり取りの間にシグルドは彼に例のキノコを渡した。

「んじゃ行ってくるね。」
「待て!」
シフォンが今にも向かおうとするチェシャ猫を呼び止めた。不思議そうにこっちを見る。
「…なぜ君はわざわざこんな事を引き受けてくれたんだい?」
「うーんとね、気まぐれなのとー…なんかアリスが大変な事になってるみたいな感じだったし」 それから数秒間次の理由を言葉として紡いだものを口にした。
「アリスとは「トモダチ」だからね」
そう言って細やかな風に溶け込むように音もなく消えていった。



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