淘汰の国のアリス | ナノ

ローズマリーが木槌を叩く。皆は一斉に真ん中に視線を向けた。こんなにもたくさんの視線が集中するのにも関わらずセージ達もびくともしない。やはり大衆の目に晒されるのは慣れているのかもしれない。

「ではジャック、証言せよ。」
「はっ」
そう返事して席を立つ。テーブルから1つの巻いた状態の鉛色の縄を取り出した。
「ねえ、六番さん。さっきはありがとう。ところで…」
隣で腕を組んで傍観していた六番の肩を指でつついて反応があったのを見計らえばそっと耳打ちをした。
「なんだい?」
六番も誰の耳にも障らない小声で返す

「一体何が起こったの?兎さ…ピーターさんは何をしたの?」
すると六番が周りの目を気にしながら早口で言った。
「地下牢で3人の兵士が死んだんだ。いかにも殺された…そこには斧を持ったピーター様が…あ、喋るぜほら」
「え…!!?」
アリスは一瞬、いや、その一瞬は倍の時間に感じたぐらい時の流れは長く長く。止まったようにも感じたと思えばそれは意識。たとえば大抵の人は「誰々を自分の知ってる人が殺しました。」と言われて「はい、そうですか」となるだろうか?すぐには信じない者、真っ向から全否定する者など多くは拒否的反応を起こすはずだ。アリスに至っては明らかに前者だ。後者まで及ばないのはきっと「殺しました」と断言していないからだろう。それでもアリスは被告席を向く。

ピーターの手首には黒い手錠がかけられていた。

「つい昨晩、廊下で会った兵士の五番からお願いをされました。…彼は「縄が欲しい」と言ってきたのです。」
「…縄?」
ローズマリーが訝しげに眉を寄せる。この事件との関与性を疑っているのだ。
「ええ。俺も彼が何のために使うかは知りませんでしたし、訊ねてみても曖昧に濁されたので、とりあえず俺は「こちらの囚人捕獲用ではない普通の縄を渡しました」。」
ジャックは鉛色の縄をローズマリーに見せた。普通の縄とは違い、一度縛られてしまえばまず自力ではほどいたりするのは難しそうだ。

「…やつの証言は…真実じゃ。座ってよし!」
ジャックが無表情をきめたままゆっくり座る。
「…ここではね、アリス。嘘を言ったらみんなばれちゃうのよ」
フランネルが視線を真ん中に他人のふりをしながらもアリスに説明する。
「嫌な部屋というか便利なんだか…だから真実の間っていうのね」
自分が何かやましいことを隠している時には絶対訪れたくない場所だが逆に捉えればこんな便利な場所が一つぐらい元いた世界にあればと考えた。弁護士、検察官、探偵や警察はご用になってしまうが。

「確か被告の元に落ちていたのは普通の縄です!」
「じゃが奴は相手の目的を知らぬまま渡したのじゃ。」
隣の兵士に厳しく言い放つ。
「へえ。「縄を渡したのはこいつだ」つって処刑するかと思ったぜ。」
レイチェルはさりげなく聞こえないような小声で皮肉を投げた。そういえば彼には今のピーターの姿はどう映っているんだろう。果たしてどんな印象なんだろう。アリスはふとそんなことを考えた。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -