淘汰の国のアリス | ナノ

人混みに時折もまれぶつかりながら廊下を客人三人は手で掻き分けたらりしながら仲間の背中を追いかける。いつやらレイチェルが先頭を歩く。一番背が高いのに加えて兎独特の長い耳がいい目印になった。

「…ったく!なんで一方へしか行かねえってのにこんな混むんだよ!」
この時ばかりは気を遣っている余裕もなく、行く手を阻む兵士を乱暴に押し退けていった。フランネルもなんとか自分の入れる隙間を作る。
「強いて言うなら扉が1つ開きなのと、早番ではない人達がよりパニックになった…」
「列にでもなりゃあサッと行けるだろうが…!」
苛立ち気味でそう呟く。しかしいざ周りが一斉に混乱すれば実質無理がある。

「でも本当に急ね!…誰が何をやらかしたのかしら」
目の前のフランネルの背中を掴むつもりで手を伸ばす。
「さあね…裁判なんて余程の事件がない限り起きないから…きゃあ!」
横から誰かが体当たりしてきた(ぶつかっただけだがフランネルはそう感じた)。横にも人がいたので倒れるのは免れたが怪訝な顔で睨んできた。これじゃあたまったもんではない。会話にすらならないのだ。
「大丈夫か!?」
レイチェルが後ろを振り向く。
「大丈夫よ…ほら、あなたも前を向いて歩かないと」
「痛い…!」
フランネルが彼に注意を促した矢先、ちゃんと前を向いて歩いてたアリスも人にぶつかる。
「ぶつかるのは仕方ない…はぐれるなよ!」
「うん!」
そうだ。いちいち気にしていられない。ほら、今もどこかで「てめえぶつかったなただのあ俺じゃねえただの揉め合っている。さして自分達だけが気にすることではない。アリスにとっては仲間を見失ってしまう方が嫌だった。

「でも裁判ってことは、検察官や弁護士も必要なんじゃあ…」
アリスは心の中で呟く。勿論、裁判沙汰に遭った経験など若くしてあるはずないがつまりはテレビの見すぎである。
「こんな急に駆けつけてくれる人がいるのね。だって専属のなんかいないに決まってる!」
これについてはアリスの独断で、誰かの味方や敵をする立場の人間が決まった場所に属するなんて有り得ないと考えた故の結論だ。
「逆に、被告が城仕えてる人なら…」
根本的に蒸し返そうとしたその時フランネルの歩みが遅くなる。

「ヤマネさん?」
フランネルはやや疲れた声で返した。
「…ついたみたい」
前方には「裁判中」と書かれたボードがかけられた扉があった。
「もう始まってるのね」
一気に緊張感が高まるアリスに、扉の側にいた兵士となにやら手続きをやり取りして気さくな笑顔を向ける。
「なーに、俺たちはありのままを話せばいい。そんなガチガチになんなくても大丈夫さ。」
「う、うん。」
そもそも裁判所などめったに入る機会がない場所に足を踏み入れる自体が緊張ものなのだが、確かに自分達は特に何にも関与した覚えはない。一息つきリラックスしてから開かれた扉の奥へ一歩またがった。



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