淘汰の国のアリス | ナノ


アリスは重い瞼を持ち上げる。その瞬間にカーテンの隙間から差し込む目映い光に目が眩んだと同時に脳に直接「朝」だと伝えた。空の色は薄く、やはりまだ肌寒い。随分長い時間眠りにふけたので目覚めは快調、疲れはとれて体もなんだかかろやかだ。

「…うっ、ん〜…!本当によく眠ったこと!夢も見る暇なかったぐらい!こんなの多分初めてなんじゃないかしら。夢なんて寝てる間しか見れないのに、なんだか残念だわ。」
おもいっきり両手を上に伸ばした後、朝起きて早速長々と独り言を呟く。もはや癖なものは仕方ない。
「………あら?いない…」
ふとある違和感に気付く。一緒に寝ていたこの部屋の主のピーターがいないのだ。体が軽かったのもきっとそのせいかもしれない。
「…早起きさんなのね。」
しかし特に疑問にも思わないでゆっくりベッドから体を出した。意識はそこまで冴えておらず、ふらふらと洗面台に向かって足を引きずり歩く。使い捨ての歯みがき粉を大量に出したり、間違えてお湯を出したりとめちゃくちゃな行動ばかりだ。

「きっともうお仕事に励んでるんだわ。…働き者ねー…」
口を濯いだ後、冷たい水で顔を洗う。おかげでいつも通りのぱっちりとした目になり意識も冴えた。行動にも張りが出る。
「よし!」
パジャマを脱いで綺麗に畳んで籠の中にしまい、綺麗に洗われ用意してある私服に手を伸ばす。まずはレース付きの水色のワンピースにを頭から被るように着て、次に白いエプロンドレスをくくりつける。長く大きな腰元のリボンも慣れてしまえばせっせと手際よく結んでしまう。蝶結びが崩れてないのを鏡で確認したら後はもう長い靴下を履いて、ヘッドリボンを飾れば完璧…

「な、なに!?」
廊下の方から複数の足音が騒がしく聞こえてくる。あまりにも激しいのでアリスもヘッドリボンをつける仕草のまま振り向いた。

「朝っぱらからうるさいわね!」
朝っぱらから独り言でうるさい自分を棚にあげて少し腹を経てるが、内心は何が起こったか気になるようで神経を扉の向こうへ研ぎ澄ました。

「大変だ!だいぶ遅れたぞお!!」
「急げ急げ!裁判は真っ只中だ!」
止まない足音と共に兵士達だと思われる声が聞こえた。

「裁判?何の事かしら…」
ヘッドリボンがやや傾いたまま、アリスはそっと部屋を出た。
廊下を世話しなく行き交う兵士達はみな酷く焦っている。ほとんどは「大変」、「裁判」の単語を口々に叫んでいるが、アリスにとって裁判が大変なのはわかったが裁判がまずどういう意味かさっぱりで廊下の壁際で茫然とするしかなかった。

「アリス!!」
後ろから聞き慣れた声が名前を呼ぶ。体ごと向けたらレイチェルとフランネルが駆け寄ってきた。

「三月さん!ヤマネさん!」
これといって変わらない、出会った時と同じ姿の二人にお互いホッとした。だが一人足りない。
「帽子屋さんは?」
レイチェルは性分なのかアリスの歪んだヘッドリボンを直してあげつつ言った。
「ちょっくら野暮用だってよ。すぐに戻るってさ。」
真っ直ぐ整ったヘッドリボンに満足したレイチェルは満面の笑みで頷く。粗暴そうに見えて丁寧な作業をするもんだ。




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