淘汰の国のアリス | ナノ

パラパラと木屑がこぼれ、分厚い木の板で作られた扉はハンマーの後を残すどころか原型もとどめていなかった。塵が空気中に漂い、廊下からの光がわすわかながら向こう先までの道を照していたがそれだけは階段の下の方は真っ暗だ。さいわいセージは懐中電灯を所持していた。

「ピーターさあああん!一体何事ですかぁー!!?」
最下層まで届くよう大声で呼んだが周りから自分の声がこだまで返ってくるだけだった。
「…返事がないよ」
「小生もついていく。状況によって人を呼ぶよ」

今やこれほど頼りになる存在はない。心強い味方を連れて足元を照らしながら速足で階段を駆ける。下に近付くにつれ、妙な臭いが鼻につくのが徐々に不安へと駆り立てる。

鉄の臭い?

アルカネットは職業上、セージもまたこのお城に来て以来皮肉にも馴染みのある臭いなため確信が持てた。一段飛ばしの結果、早くも石造りの床が見えてくる。静かすぎるここでは速まる鼓動ですら響きそうだ。呼吸も疲労ではないのに荒くなる。どれも全てセージが不安で不安で仕方がないからだ。

「…はぁ、やっと着いたね」
セージが地下牢の床に足をつく。アルカネットがスピードを緩め後に続く。
「…セージ?」
目の前の背中が邪魔でそれより前を見れない。セージは何故か知らないが、ただそこで突っ立っていた。

「…あ、あうあ…あああぁ…」
立ち塞がっていた背中は、後ろにぐらりと倒れる。驚いたがすかさず彼を胸で受け止めて顔を覗き込むセージは泣き出しそうな顔で前方を震える指で差しながら訴えるように力なく叫んだ。
「…アル…!!やっぱりただ事じゃないよ…こんな、こんなの…ッ!!!」
「……?」
まだ支えたまま差された方を怪訝そうに見上げた。
「なん…ッ!?」
言葉も最後まで出ないほど息が詰まりそうな光景だった。

牢の四方に派手に飛び散った生々しい血飛沫、床に転がるのは「かつて人だったもの」という表現に相応しいぐらいの凄まじい姿に成り果てた兵士らの亡骸だった。より一層臭いが充満している。

その真ん中には、帰り血にまみれたピーターが斧を片手に立っていた。服は仕事着であるが、部分的に着衣が乱れていたり切り刻まれていてその様は実にみすぼらしい。一番近くにいただろう、五番は壁にぐったり座り込むように果てている。壁には引きずった血痕が滴を垂れていた。

「…今すぐ誰か呼んでくる!悪いけど見張っててくれ!」
なんとか自力で立ったのを確認すれば返事も待たずにアルカネットは大急ぎで階段をかけ上がっていった。

「………………」
一人取り残されたセージは広がる惨状に無意識に涙を流していた。ただ両方、立ち尽くしたままで少しも動かない。いや、動けないのだ。

「……ピーターさん…どうして…」
掠れた、か細く消え入りそうな声で訊ねる。ピーターは、背中を向けたまま少しの沈黙の後で問いにこたえた。息すらも、震えている。

「……わからないよ。…わからない…僕は…なんなんだ?」

間もなくして向こうから沢山の足音がこちらに駆け寄ってきた。


―さあ。裁判の始まりだ―








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