淘汰の国のアリス | ナノ


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二人がたどり着いたのは、やはり地下牢へ続く扉の前だった。
「こんなところ、あんなメンツで行くことないっしょ…」
「…どうかな。少なくともあんな雰囲気で行く場所ではないよ…」
扉のに耳をくっつけ端から見れば不審ま丸出しのセージの側でいかにも他人のふりをきめこみながら適当に話には応じた。
「まあねー。兵士さん達はずいぶんフランクな感じだったし。ていうかなんでアルついてきたわけ?」
とっさに名前を呼ばれたアルカネットは視線を斜め下に落としてぶっきらぼうに言った。
「心配だからに…決まってるだろう」
「………ぷっ…あはは…マジで」
するとセージは振り向いて丸い目を二度瞬きさせた後、なぜか冗談を聞いた時みたいに小さく吹き出した。
「わ、笑う!?」
「そりゃあ笑うよー。だってさあ…」
ポーカーフェイスも嘘っぱちのむきになったアルカネットに笑いを含んで続けた。
「そこまで上司思いな奴だなんて意外すぎて…」
「………………」
語弊というのはなんと面倒なものなのだろう。アルカネットにとって直属でもない他人の事などいちいち心配していられない。だが一度で伝わらなくては再度言う事でもない。とりあえずやるせないのでそういう事だと諦めた。
「…お?今、ドンって音がしたよ?」
慌てて耳をそばたてる。アルカネットからは全く聞こえない。
「何の音だ?」
「…さあ…壁にぶつかる音かな。…なんかもめてるっぽいねー…」
「本当に中で何をやってるんだろう」
セージの実況でしか把握するしかないアルカネットもこれだけでは何が何だかわからず腕を組んで頭の中で想像してみる。
「……ん、えーと。」
「どうした?」
さっきまで興味本意でふざけてたセージの顔に真剣見が帯びる。
「笑い声の後に泣き声が聞こえたんだ。泣き声は…どっちだったかなあ…「やめて」とか「痛い」とか」
アルカネットの表情にもただ事ではないという様子が浮かび上がる。
「女王の命令じゃない他に何があるんだ?セージ、どっちがどっちかわからない?
「うーん…うわあ!なんかなんか悲鳴が…!」
「誰のなんだ!」
いつになく切羽詰まったアルカネットが問い詰める。一方でセージは困惑気味に弱々しく首を横に振った。
「いろんな声が混ざってわからないよぉ」
「耳がいいのに意味ないじゃんか!どいて!聞き分けるのは得意だ!」
我慢の限界点を突発したアルカネットはセージを無理矢理押し退け、五感を敏感にさせる。

「……どう?」
傍らで心配の眼差しでアルカネットを見守る。

「…………弱ったぞ、セージ」
「…どういうことなの!?」
数十秒、扉に張り付いて沈黙していたアルカネットがようやく口を開いた。
「全く聞こえない」
「アホカネット!聞こえなけりゃあそっちこそ意味ないじゃん!!」
怒りに拳が小刻みに震える。自信はあったアルカネットは時間まで無駄にしてしまい何も言い返せなかった。たとえまたまた不名誉なあだ名を付けられたとしても、だ

その時だった。

「「!!?」」
驚きのあまり体が跳ね上がり、時間をかけて扉の方に、間近で雷が落ちたような衝撃をもろに感じたような顔を向ける。

「今のって…アル」
「…ああ、セージ。小生にも聞こえた」
お互いに同じ状況をおおむね理解すれば、セージがこうしてはいられないとなにかしら行動を起こしそうだったので慌ててアルカネットが彼を止める。
「小生達でなんとか出来ると思う?ひとまず誰か呼んでくるから…」
あくまで冷静な態度に苛立ちを覚えたセージは強く反抗する。
「バカか!それまで待てっていうのかよ!…大事になってからじゃあ遅いんだぞ!?」
また言い返そうとするアルカネットを無視して扉の目の前で仁王立ちで構える。そして、帽子につけてあるダイヤのバッジを取り外し握りしめた。

「お前がバカだ!よせ!壊す気か!?」
「うるさいッ!!」
アルカネットは彼の腕を引っ張るがセージは力任せに振りほどく。

「ドアぐらいならボクが直す!何事もなければそれでいいだろ!」
すっかり感情的にのぼった思考回路で落ち着いた判断は出来なくなっていた。事実鍵などは持っていない。セージは、バッジを握った手を振った。

刹那、バッジだったものは長い柄に樽ぐらいはある巨大なハンマーに姿を変えた。

「ハンマーはね…打破するためにあるんだから…」
ぐっと両手に力を込め、足を前後に開く。
「セージ…はやまるな!」
「どぉりゃあああああぁぁぁ!!!」
アルカネットの呼び止める声も虚しく、ハンマーは空に弧を描いて木製の扉をいともたやすく木っ端微塵に砕いた。




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