淘汰の国のアリス | ナノ

「まさかあの時をまんま夢で見るなんて…」
まだ微妙に空の色は暗く、朝日は雲という名の毛布にくるまって出てこようとさしていない。服は例のゲームでもお馴染みの豪華な仕事着に身を繕っていた。明かりの消されたシャンデリラは頼りにならず、それでも早朝の薄暗さは視界は明らかである。早番が多いピーターにとっては慣れたも当然で、眠気もこなければ怠さもない。

「よく考えたら僕はなんてことを…過ぎたことは仕方ないとしても…アリスはまだ寝ているみたいでよかっ…」
うつ向きながら独り言のように言い聞かせて廊下を歩いていると、視界に誰かの靴先が見えたのでハッとして立ち止まり顔を上げた。
「き、貴様らは」
次の瞬間、ピーターの表情が強張った。
「これはこれは…ピーター様ではございませんか!朝早くからお勤め御苦労様です!」
そこにいたのは三人のトランプ兵。だが彼らの番号は右から2、5、7。ついこの間ストレスの捌け口にピーターを地下牢に監禁し暴行を加えた本人達で、そのナンバーはいやほど頭に残っていた。真ん中にいるのは五番。その態度が敬意ではないのも、口端が上がっているのを見れば一目瞭然だ。

ピーターは咳払いでいつもの「職業上の」自分を被る。
「君達にも感心している。だが一般兵士は予定表には7時からと記していたではないか。まだ一時間もあるぞ?」
相変わらず子供のような外見とはミスマッチなその態度。かくも女王陛下と王の次に偉いのだから仕方ないのは仕方ないのだが。
「何を仰いますか!正しくは二時間後…でございますよ」
七番が意味深な笑みを浮かべる。ピーターはまだ理解ができていない。
「…君達こそ何を言って…」
二番が笑いを人を小バカにするような目でこっちを見ながら言った。
「貴女がいつも持ってる時計、実は少しばかり細工をしまして」
「…貴様!!」
ピーターがいつも手にしている懐中時計の針をずらしたのだ。秒針の速さは変わらないので気付かなかったのだ。それを聞いて一気にごうが沸いたピーターは酷い剣幕になる。


「まあまあ、早いにこしたことはないでしょう。…朝イチからスッキリして仕事に励みたいですし…」
「だからと言ってこんな…ん?」
七番がさりげなく背後に周り肩を叩く。いつのまにかトランプ兵に取り囲まれていた。身長の差があるせいか圧迫感を四方から感じる。怪訝に見上げる。
「…なんだい?」
目の前で距離を詰めてくる五番が下衆のような笑みで見下ろしてくる。
「何って…わかってるだろ?」
嫌な予感は的中した。ピーターの表情は、恐怖にひきつった。しかしながら不意打ちではないことを利用してあくまで上司としての威厳を翳す。
「君達…いい加減にしないと…!」
女王に言いつけるぞ、と言おうとした時、五番に髪の毛を雑に掴まれる。
「こっちはお前がアリスと同じ部屋に入ったのを知ってるんだよ。…こっちが告げりゃあ女王陛下のことだから…アレだ。」
「…………」
アリス絡みで何かあったものならきっとただの騒ぎではない。今では明らかにピーターが不利だ。

「……わかったから、離して…」
五番は苦痛に顔が歪む上司を半ば愉しんで見ていたがこれからはもっと愉しめるのを考えて笑顔で離した。一瞬バランスを崩すもすぐに立ち直る。

「よし、なら行こうぜ。待ちきれねえなあ」
「例のやつもあるし、更に抜けるじゃね」
「こらお前ら、場所までは自重しろ」
そんな感じの会話を、ピーター暗い顔でついていき、一行は人気のない廊下を地下牢に向かって歩きだした。




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