淘汰の国のアリス | ナノ


「……やはり、美しくはないな。」
ローズマリーはつい昼時に賑わいの歓声と数多の亡骸に満ちた雑踏も過ぎ、ぽつりぽつりとライトに照らされて薄ら闇にと静寂に包まれた薔薇咲く花園を扉の近くから見下ろしていた。

「それでも、懐かしい気分に浸るとは…」
こね深夜の中の闇では表情は伺えない。しかし、声色からすればひどく寂しげであった。

「…母上…」
その時、後ろから甲高い足音がゆっくりと近付いてくる。ローズマリーは振り向くことはない。こんな時間にこの場所を訪れるのは大概決まっているからだ。

「こんな所にいては風邪をひいてしまいます。」

低く無機質な声。少し離れた所で足音は止まる。
「ふん…エースよ、貴様こそ明日のために早く寝たらどうなのじゃ」
声にいつも通りの冷たさが戻る。一切振り向きさしないまま。一瞬吹いた風が束ねた長髪とマントを揺らしせわしない音を立てるがすぐに止んだ。


「女王陛下、貴女が主役でしょう。私の出番は「その後」でございます故。」
「…………… 」
向こうにも均等に吹いたのだろう。しばらく葉が風に揺れて靡く音が心地よく静けさの中に響き渡る。少し黙ってからローズマリーが口を開いた。

「そなたには感謝しておる。妾の野望に付き合ってもらってな。」
エースはさも当然の如く淡々と返す。
「私の為でも、女王の為でもありますから」
声音には断固とした意志と忠誠を、背中越しに伝わってくる。
「…そうじゃな。…やはり妾が喚び出しただけあってそなた達は唯一信じることができる。…寂しいか、妾が寂しい奴なのかもう…わからぬ。」

気のせいか、国を統べる傲慢な女王の顔はなくただただ物思いにふけるかのような、そして悲しみを帯びた笑みを浮かべ吸い込まれそうな星のない夜空を見上げた。

「…妾は、母上の優しさに漬け込んだこの国の住人も、そんな母上を反面教師に虚勢を振るう自分も大嫌いじゃ。…いつか来る旅人に倒される運命も…大嫌い」
「女王陛下…」
エースはそれ以上は何も言わず主人の小さく見える背中を、ローズマリーは母との思い出の場所である薔薇咲く庭をしばし眺めていた。






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