淘汰の国のアリス | ナノ

「いやその、立場的に考えたらってだけで違うんだ!」
立場的という言葉でジャックとのやり取りを回想した。「そういえば結局私をどう思ってたのかしら」と心で呟きながら一人勝手に慌てふためくピーターをぼーっと見つめていた。いつの間にか耳は折れている。触りたい。

「……君は…優しくてしっかり者で…行動力があって、今までの中で一番アリスに近いと思ってるよ…」
と言って恐る恐る上目遣いでアリスの様子を伺う。触りたい…じゃなくて、どこかあざとい素振りといきなり自分を誉める言葉を羅列されむず痒くなる。
「え…、兎さんったら…やだわ、そんな」
「ほんとだよ、アリス。僕は適当な事は言ってない。」
するとなぜかピーターはおもむろに袖を捲る。アリスも彼の行動に見当がつかずその様子をただ眺めていた。
「…それは?」
彼の晒した細く色の薄い右腕。うっすらだが大きな古傷が落ちた色で浮かんでいた。
「昔、僕はいつものようにこの国に連れていく女の子を探していた。その時、何かにはねられたんだ。向こうは逃げたし、雨だし、災難だよ」
「まあ、ひどい!」
アリスはたいそう憤慨した。
「ひき逃げなんて許せないわ!」
「気づかなかっただけかもよ。…でも人はいないし、身体は痛くて動かない。もうこのまま弱って死ぬんじゃないかって思った。」
そう語るピーターはまるで自分で自分を憐れんでいるにも見える。袖はもう、下ろしていた。アリスも彼の運の悪さには同情するしかなかった。仮にその姿なら助けを呼べたかもしれないのに!

「いいんだ、どうせ。僕には相応しい末路さ。でも死ぬなら一瞬がよかったなーとか考えてたら…アリス、君が僕を助けてくれたんだよ。」
「…私が?………ああっ!確か7歳の時だわ!」
しばらく怪訝になってから何か大事な事を思い出して大きな声をあげる。

「道ばたで傷だらけの兎が倒れていたの。びっくりしたわ…チョッキとか着てたわね!」
「僕は君の声にびっくりしたよ…!」
耳を下に引っ張って俯いているピーターにアリスは「ごめんなさい」と謝ったら手を放して続けた。




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