淘汰の国のアリス | ナノ

何もしないの「何も」だなんてまだ色恋沙汰に縁のない少女が知るはずもないのだが、それでも家族ではない異姓となど考えもしないアリスは嫌ともいいとも返せなかった。まあ、妹と一緒に寝るようにと思えばいいのだろうが…。それより部屋の主に遠慮させるのがアリスには我慢ならない。おおよその理由はそれだ。

「な、なぜあなたが遠慮するのよ。…私が下で寝るわ!ここに来て休んでないじゃない」
「肉体的にも精神的にも君の方が疲れているじゃないか。…顔色だってあまりよくないし…っくしゅん!!」
ピーターは椅子から立ち上がった瞬間くしゃみをする。
「ほら!このままじゃあ風邪引いちゃうわよ?明日も休みじゃないなら仕事に…ッ」
一方でアリスは頭に何か厚い板で叩かれたような痛みが走りこめかみをおさえる。きっと度重なる疲労と居心地悪い夢を見たせいで体調が崩れているのだ。
「アリス?…どうしたの?」
心配そうな顔が覗きこむ。わずかながら、幼い顔立ちに姉を重ねてしまう。激しい痛みは一瞬で過ぎたが体がなんだか怠いままでアリスは不自然な作り笑いで返した。当然、誤魔化せるわけはなく余計に心配を煽るはめになった。
「…とりあえず、アリスはそのまま寝なさい。いいね?」
「いいの?明日に差し支えるわよ?」
言うことを聞かない子供に促すみたいに告げたが相手がただ悪い子ではないのがやりにくい。仕事に影響が出るのは困る。
「……だって…私はいいけど。一緒に寝るなら、窮屈でしょう?」
「なんだ、そんな事か。」
アリスが別の理由で拒んでいたのかと思い込んでたピーターは深く安堵する。想定していたのと違う反応にただ「え?」と間の抜けた言葉を漏らすだけだったアリスの反応は彼にとっては想定内だった。するとさも当たり前に(※彼の寝床である)アリスの隣に潜り込む。

「わっ、ちょ、えっ!?」
「ほら。案外そうでもないでしょ?」
そんなに近くではない所に、ひょっこり首だけ出してこちらを見ているのは先程までの真剣な雰囲気とはうってかわってまるで無邪気な子供のような笑顔だった。それでもベッドにはまだ余裕の広さだ。
「………」
「…アリス?」
不思議そうにこちらに向けられる視線に丸い目で見つめ返す。
「こんな兎さん、はじめて見たわ」
「…………」
穴に落ちる際に見た顔、兎の家で聞いた声、そして城で見た態度。どれにも全く当てはまらない、素を感じさせるその表情は本当に見た目相応の幼さが滲み出ていた。その顔がアリスに言われた途端に儚げな笑みになる。

「…これが僕なんだよ、アリス。偉そうなのは職業柄なのさ。」
「兎さん…」
普段の大人びた振る舞いは自分の役柄に応じて作ったキャラクターなのか。それをすっかり個性だと決めつけて、取っつきにくいと心の隅では敬遠していたアリスにどう声をかけていいかなんて簡単に思い浮かぶわけがなかった。





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