淘汰の国のアリス | ナノ

アリスの顔から血の気が引いた。幽霊などを信じる質ではないが、それは単に「遭遇したことがなかった」だけで、というか誰もいないと思っていた部屋から誰かがいるような気配を感じれば死んだ兵士がどうのこうのより違う恐怖が襲ってくる。

不審者がいる。

まさか、自分に気付かなかったのか?いやまさか。この部屋は今や貸切状態だ。それを知らない人が…?ならまずアリスを起こすはずだ。やはり、気付かなかったのか?…あり得ない。アリスの服がすぐそばにあるのだから。
「…そういえば!?」
肝心な事を思い出した。

洗面台には別の誰かの歯ブラシや着替えがあったのを。現に枕も2つある。アリスの頭の中は一気にこんがらがった。
「ど…どういう…ことなの?」
ただベッドに入ったまま座り込み、色々と考えを巡らせている中お風呂場のドアががらりと開いた。

「きゃああああ不審者!!!」
咄嗟に枕を開いたドアの向こうにいる人物に向かって投げつけた。勢いよく飛んだ枕はぼすっと乾いた音を立てて相手の顔面に直撃した後役目を終えたかのような床に落ちる。
「………………」
投げられた人物は真顔で、こちらをじっと見
ていた。 真ん丸い、ピンク色の瞳。シンプルなパジャマを着ている。

「………え?あれ?」
投げた本人は、そこに立っているのが何度か見覚えのあるまさかの人物にしばらく目を疑った。
「……不審者っていうか、言っとくけどここ、僕の部屋だからね。」
まごうことなく、ピーターだった。特に狼狽える様子も怒る様子もなく落ちた枕を拾い脇に抱える。耳が垂れ下がっていかにもやるせない気持ちを表していた。
「は、はい?ちょっと待って!?私、ジャックさんにVIPなルームを用意してるからってあの…!?」
「……はぁ〜…」
最初聞いた話と全然違う!と心で嘆き、表面上ではすっかりパニックを起こしていた。ピーターは疲れきった顔で深くため息を吐く。
「ああ、ジャックの仕業さ。」
枕をベッドに置いたら近くにある椅子に座り目の前の机の引き出しから分厚い紙の束を取り出す。まだかろうじて相手が冷静でよかったとアリスは内心思って少しだけ気が落ち着いた。現状把握は出来ていないが。

「泊まり込みで仕事をする際に利用しているんだ。…ったく、アイツは何を考えてこんな事を…僕も入った時はびっくりしたよ。君が僕のベッドで寝息立ててるんだからさ」
つまり、ピーターはアリスがこの部屋にいるのを知らずアリスはここががピーターの部屋だと知らず。騙されたのはアリスの方だが全てはジャックの策略だったというわけだ。何の目的かはさっぱりだ。とはいえ、セージ達を責めるつもりはなかった。上司の無茶な提案の巻き添えを引き受けさせられただけなのだから


「起こそうとしたけど随分気持ち良さそうに寝てたし。あんな事があったから余程疲れてたんでしょ」
ああ、そうか。彼はアリスの為を思ってあえて起こさなかったのか。疑心暗鬼になりかけていた分つくづく反省した。ピーターは机のライトの紐を引っ張る。アリス照らは程好い光が机周りを照らしているように見え、書類に判子を押している姿が明らかさまになった。立っていればまるで子供のようなのにこうして見ると仕事に熱心な大人みたいに見える。



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