淘汰の国のアリス | ナノ

アリスが淘汰の国で学んだ事といえば、自分とは何かと命の価値観といったところかもしれない。

「おかげさまでセクハラされる心配はなくなったよね。」
「こき使われるけどねー。」
セージは冗談のように笑い飛ばす一方でアルカネットは子供を心配する親のような表情。この城に来る前の関係を伺える。女である事が特なのか損なのかというのはあんまり無くて、それぞれに損得があるのだ。セージはまさしくその違いを身をもって体験しているのだろう。男子トイレは確かに、レベルが高い。考えただけでぞっとする。

「あ、もうそろそろ着くんじゃない?あそこ!」
セージが指差す先には他の扉より一回り大きい2つ開きの扉。
「とりあえずお風呂だけでも入れば?そんな格好で晩餐会には出れないよ?着替えもあるし…」
「…うーん…」
アリスはしばらく考え込んだ。
「…私、あんまりお腹空いてないの。…気分ものらないわ。」
「えーっ、そんなあー!」
余程残念に思ったセージがこっちを向いてオーバーな程のリアクションをするがアルカネットは職業上、他人の体調を優先したのだった。

「あんな事があって間もないから相当疲れてるんだろう。しかしなにも腹に入れないのはお勧めしないな。」
そう言うと帽子の中に手を突っ込み、ガサガサという音とともに何かを取り出した。
「これだけでも少しは腹は満たされるはず。後はゆっくり休むといい。」
アルカネットの手にはカロリーメイドと書かれた黄色い箱があった。
「出たー!仕事のお供…ってアンタ、どこにいれてんのよ…」
セージも苦笑している。もしかしたらエースやシフォンもあの帽子の中に何か…
「よし!ボクからはこれをあげよう!」
セージはおもむろにエプロンのポケットから取り出しアリスの手に握らせたのはボンジュースと書かれミカンの絵のラベルに包まれた黄色い液体入りのペットボトルだった。それよりも長時間水に触っていたかのような湿っぽく赤い、そして冷たい手のひらに若干びっくりしたが。

「そんなパサパサしたの水分無しではとても食べられないよ!ま、ボクからの気持ちということで。召し上がってください!」
満面の笑顔、医者としての心配り、その両方をないがしろにできるはずもなく、これぐらいの量なら喉も通るだろうと有り難ささえ感じた。

「ほーい、着きました!」
とうとう扉の前まで差し掛かった。
「ありがとうございます。」
アリスは二人に頭を下げて礼を言った。セージは大袈裟に手を振る。
「いやいやいやいや!どういたしまして!」
「セージ…まあ明日に備えて早く寝るように。」
そう言って一礼した後、次の仕事が立て込んでいるのか足早に去ってしまった。「おやすみねー!」とセージはぶんぶん手を振ったら急いで後についていった。

アリスは二人を見送ったら、扉の大きさに圧倒されながらも一息吐き出してゆっくりと扉を開いた。





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