淘汰の国のアリス | ナノ

だがしかし、アリスが最初に問い掛けた質問自体には答えていない。セージも忘れているわけではなかった。
「てかさあ、アルは確かに医者ってすごいスキル持ってるからわかるけどボクなんか実際傭兵つっても大したことないんだよね。だからせいぜいみんなの慰め物になるのが末路だって悟りかけてたよ。」
「…あんまりそういう事言うなよ。」
アルカネットがやや苛立ったように言う。
いちいち周りの兵士の愚痴を延々と聞かされたあげく撫でたり励ましたり時には同情してあげたりと疲れて荒んだ心を慰めるだけで仕事になるならやすいものではないか。アリスは逆にアルカネットの反応が気になったが、慰め物とまるで道具のように言ったからだと考えると納得したのだった。
「だってハートの城には女王陛下以外の女の人はいないからねー。下心全開!…ところが、「妾以外に女はいらん」つって、ボクをなんか不思議な力で男にしちゃったんだよね。」
それこそ下心があるのではないかと疑いたくなるが、あの女王にそのような雰囲気もないし…。
「王が浮気しては困る、とのこと。」
「断ったら多分ここにすら居なかっただろうけど!」

アリスはまさか、ローズマリーが実は自分に自信がない性格だという印象に駈られた。なぜなら、自分に自信があるのなら周りにそうまでして警戒するだろうか。いや、しないだろう。アリスはそう考えた。ただ不穏因子に先駆ける行動が極端すぎるのが否めない。

「まーはじめは慣れないことばかりさ。男子トイレは登竜門だったよ!お風呂は時間帯見て…おっと、これは内緒だった。」
周りに兵士や、すぐ後ろに異性がいるのに気づいてそれ以上の秘密を閉ざした。これがついさっき、どさくさに紛れてアリスにスリーサイズを聞き出そうとした人物の態度である。

「ボクにもジャックて名前があったんだけどね。アルもエースっていう。敗北者のさだめかな。女王からもらった名前でしか名乗れないんだ。」
アリスにしてみたらとても「はい、そうですか」と受け入れられるものではない。しかし命の危機につねに立たされているような身分からしては自分の名前がそれを左右する。アリスはそんな状況下とは無縁なため、なんとも言い難かった。

「にしてもこのセンスなくない!?バツつけちゃってさあいらないよね!」
セージ振り返って帽子を取りアリスに見せびらかす。アルカネットの帽子にもついていた、ハートのバッジとダイヤのマークをバツで隠したマークのバッジ。これが意図するのはわかった。かなり皮肉なものである。

「センスはイマイチだけど、別にさ、個人的にはダイヤ軍のプライドがどうとかあんまりないんだよねー。」
セージは満足げな笑みを浮かべる。
「だってさ、つまらない見栄張っても死んだらそれでおしまいじゃん!それに疲れるだけだもん。ボク達は人間として生きてる、だから人間としてのプライドさえあれば十分だと思うんだー。」
投げやりにも適当にも感じることは出来るが、アリスからしたら彼は前向きに楽な生き方を求める自由気ままな人間に見えた。

アリスも何度か、お金持ちの家に生まれたためにやたらと周りから強制されがちで窮屈な思いもしてきたが少し和らいだ気がした。

「ここはみんなよくしてくれるし…よく先輩に仕事を押し付けられるけど、中々の給料だしごはん美味しいし!死んだらこんないい思いできないよー!」
嬉しそうに声を張るセージ。その様子を見てアリスの気持ちは随分晴れやかになった。そうだ、生きていれば必ずや良いことがあるんだ。ゲームの前にレイチェルが言った言葉が脳裏に過る。きっと言いたいことの根本的な意味は同じなのかもしれない。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -