淘汰の国のアリス | ナノ

ジャックが後ろを振り向く。刹那、「あの時」に感じた身の毛がよだつほどの妙な感覚がアリスを襲った。笑顔とは見ている方を安心させたり楽しい気分にさせたり、時にはこれほどまでに人を不快な思いにさせる事ができるんだと彼と会うまで知るよしもなかった。主にそれはどんな状況においても笑顔を絶やさない人間などそうそう出会う機会はない。まだチェシャ猫の方が人間味があった。猫なのに。

「おやおや、どうしました?顔色が悪いですよ?」
今度は身軽に身体ごとこちらを向け立ち止まる。ジャックは気づいていないのか。アリスを襲う恐怖感が今でさえ変わらない自身の笑顔だということを。
「放っておけばよかったじゃない…しかし俺も立場がありましてねぇ〜。」
ぞっとした。彼はアリスの考えているのを見透かしていたのだ。更に何気にも自分がしたんだと 暴露しだしたのだ。空気が読めないだけのバカならまだいい。ジャックは違う。わざと空気を読まず相手の心を掻き乱す、さながら道化だった。

だがアリスは俯いて強く下唇を噛んだ後、顔を上げ、真剣でなにかを訴えるような眼差しで相手の瞳を、いや、張り付けたような笑顔を見据えた。突然の豹変ぶりにわずかにジャックの表情も驚きを表している。

「…私も割り切ろうと思うわ。私情ではなく仕事なら仕方ないことよね。だとしたら私、もうあなたのことなんか怖くない。」
「はあ…それはまあ、よかったです」
明らかに何言ってるんだこの人みたいな目でこちらを見ている。アリスは構わず続ける。
「私は別に嫌いじゃあないのよ?どちらかといえば好きかな。とてもお調子者で、面白くて、愉快な人だし。」
そう話しているうちに自然に笑みがこぼれてしまう。ジャックは不思議そうに無言で聞いている。こんなところとかは本当、とある猫さんに似ているものだとより顔が綻びそうになったが咳払いして顔に真剣見を戻す。




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