淘汰の国のアリス | ナノ

その時、ドアを二回ほどノックする音がまた聞こえた。アリスの時と比べると力強い叩きようだ。

「はい。」
ドアの近くに立っていたのはアリスだったのでなんの躊躇いもなく軽く返事してからドアを開けた。
「やあアリス!満喫していただきましたでしょうか!」
「!!?」
入ってくるや突然拍子抜けた声量のある声にアリスは全身がはね上がった。そこにいたのは、爽やかすぎる笑顔を満面に浮かべたジャックだ。大体口調、声でわかるものだが何より彼のセリフがいかにも指し示していた。
「ジャックさん!もう!普通にドアから入ってきたのに普通に入ってきてよ!」
「やだー!そんなのジャックさんではございません!」
アリスは思わず動悸しつつある心臓の部位をおさえながら憤慨した。明らかに人を驚かせるまでの声だったのだから。ジャックは勿論、そんなアリスの反応を見てたのしんでいる様子だ。

「それよりアリス。一生に残る思い出を作ることができたんですか?」
アリスはやや表情が曇る。
「…うん、一生忘れられないわ」
「ほーお、それはよかった!」
嬉しげに手を合わせる(固い音がした)。アリスは彼の行動が本当の親切心だと確信した。ジャックには悪気はないんだと。彼はなにも夫人のことは口に出してはいない。女王の側近ならば夫人の処刑には少なからず関わったはずだ。そう知っていたなら事前に教えてくれてもよかったとも思いはしたが、仮に教えたとしてそれが楽しい旅に繋がるのは難しい。ジャックの行動は全く正しいとは言いたくないが、間違っているとも言えない。アリスは意味深に、ジャックにそう告げた。

「どこへ行ったのですか?ぜひ、聞かせてほしいものですねぇ〜」
「それは…その」
言葉に詰まる。
「せっかくですから街の地図を渡せばよかったですね。まあでも気になるじゃないですかー。なんか面白い場所あります?あ、やっぱり海ですね!あそこ確か鳥いましたよね、ならば焼き鳥パーティー…」
「てんめぇ!!」

後ろから人影がアリスの横を過ぎてジャックの胸ぐらを掴んだ。しびれをきらしたのか、レイチェルは頭のてっぺんまで血がのぼっており怒りに狂った凄い形相で睨む。一方ジャックは目を丸くしているがさほど驚いた素振りもなく自分に起こっていることではないかのように茫然と相手と視線を合わせている。



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